ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)

私とオーケストラは“魔法”のような神秘的な関係で強く結ばれています

(C)Chris Lee/The Philadelphia Orchestra
(C)Chris Lee/The Philadelphia Orchestra

「次世代を担う逸材中の逸材」と目され、一昨年にアメリカの名門フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督に就任して、世間をあっと驚かせたヤニック・ネゼ=セガン。華麗な“フィラデルフィア・サウンド”を武器に、数々の秀演を生み出し続けて来た名門にあって、なお「これほどフィラデルフィア管を素晴らしく鳴らした指揮者は、かつていなかった」と現地で絶賛されている。そんな彼が、遂に同管とのコンビで初来日。名シェフとしての本領を発揮する。
「私と“華麗なるフィラデルフィア・サウンド”との出会いは、はるか昔です。幼い頃、ユージン・オーマンディが指揮する、チャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』を自宅のステレオで聴き、大きな衝撃を受けると共に、深い感動を覚えました。あの録音は、私が演奏家を志すきっかけの一つになったと断言できます」と振り返る。
「“フィラデルフィア・サウンド”は、この楽団が誇るかけがえのない財産であり、他の楽団には決して真似のできない、輝かしい個性です。初めて振った時に、サウンドという強烈な個性を持つ一方、レパートリーに応じてその個性を変化させていける。まさに万能で柔軟。この楽団と組んだら、どんな冒険だってできるだろうと大興奮しましたね」
その彼が、憧れの楽団の音楽監督へ。
「ただただ光栄。でも、不安は一切なかった。“フィラデルフィア・サウンド”を通じ、尊敬するレオポルド・ストコフスキーやオーマンディら歴代の音楽監督が育んできた楽団の伝統を、常に肌で感じられるんですから。このサウンドに触れることそれ自体が、私のモチベーションとインスピレーションを日々高め、豊かにしてくれています」
そして、就任直後から、鮮烈な音楽創りで地元のみならず全米や欧州でも旋風を巻き起こす。
「初共演の時から、私たちの相性は抜群だったのです。“魔法”とでも形容したくなるような神秘的な関係で強く結ばれています。そして、指揮台に上がるたび、互いが信頼と尊敬で繋がっているのだと強く感じます。音楽における最高の域を目指そう、という共通の情熱が、そこにあるのでしょう」
最も影響を受けた人物に、師のカルロ・マリア・ジュリーニを挙げる。
「常に『自然』で、『ありのまま』に表現できるように努力すること、そして、作曲家の意図に忠実であることが最も重要だ、と力説されました」
数々の欧米の一流楽団に客演を重ねている。
「各オーケストラが独自の個性を持っているので、それぞれの楽団に先入観なく向き合うのが信条。いわばオーダーメイドですね。私はその場で必要とされる“何か”を見極め、そこへ自分の指揮を添わせます。楽団独自の“カラー”を際立たせることこそ、指揮者の使命でしょう」
来日公演に用意したプログラムは二つ。一つはオール・チャイコフスキーで、思い入れもひとしおの「悲愴」にヴァイオリン協奏曲(ソロ:諏訪内晶子)を組み合わせた。
「『悲愴』は私にとって、長年の強烈な憧れの対象で、尊敬するオーマンディと自分を結ぶ作品でもあり、何より“勝負曲”ですから。実は、2008年末にフィラデルフィア管へデビューをした際にも、この曲を振ったのです。“華麗なるフィラデルフィア・サウンド”の特長の中でも、とりわけ滑らかでふくよかな弦楽セクションの響きを存分に堪能していただける交響曲だと思います」
そして、もう一つが、モーツァルト「ジュピター」とマーラー「巨人」という交響曲オンリーのプログラム。「モーツァルトでも、この楽団全体が生み出す躍動感を存分にアピールできます。特に私は最近、彼のオペラを頻繁に演奏・録音しているので、その経験を通じ、理解はより深まっているはずです。そして、マーラーは楽団の歴史上、非常に重要な作曲家。特にストコフスキーが1916年、交響曲第8番をアメリカ初演したことは、常に楽団の誇りです。そうした古き佳き伝統を背中で受け止めつつ、私なりのマーラーへの憧れも表現できればと考えています」
ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団との2008年の初来日以来、わが国の聴衆にもおなじみとなったネゼ=セガン。
「日本の皆さんの、内に秘めたエネルギーと集中力には、いつも魅了されています。今回は、フィラデルフィア管と私の日本初公演となります。現地フィラデルフィアや、ニューヨークのカーネギーホールなどで経験を重ねてきた私たちの“今”を、ぜひ一人でも多くの方に聴いていただきたい。会場でお待ちしています!」
構成・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2014年4月号から)

ヤニック・ネゼ=セガン(指揮) フィラデルフィア管弦楽団
曲/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン:諏訪内晶子)
チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
★6月2日(月)19:00
曲/モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」
マーラー:交響曲第1番「巨人」
★6月3日(火)19:00
会場:サントリーホール
問:カジモト・イープラス0570-06-9960
http://www.kajimotoeplus.com
ローソンチケット Lコード:32034