円熟のマエストロが神々しい音楽の高みへといざなう
ベートーヴェン後期の宗教曲の大作「ミサ・ソレムニス」。不朽の名作だが、かなり手強い作品でもある。もちろん、柔和で美しい「キリエ」、輝かしい「グローリア」、ヴァイオリン・ソロが活躍する「ベネディクトゥス」など、直感的に楽しめる場面はたくさんある。しかし、ラテン語の典礼文の言葉に応じて音楽が細かく変化し続け、各所で複雑な対位法が駆使され、声楽にも歌唱困難な箇所が連続するなど、全体には一筋縄ではいかない難曲と言えるだろう。その真価を体験するには、全体を束ねる指揮者の深い理解と力量が必須となる。
その大作に接する好機となりそうな公演が、飯守泰次郎が指揮を執る2月の東京シティ・フィル定期演奏会である。ドイツ音楽において屈指の巨匠である飯守と、彼が桂冠名誉指揮者を務める同楽団の共演は、毎回のように聴衆に深い感銘を与えている。飯守は昨年12月、武蔵野音楽大学の創立90周年記念公演で本作を取り上げ、学生たちのエネルギーを引き出しながら作品の深奥に迫る好演を作り上げたばかり。今度は社会で年輪を重ねた演奏者たちとともに、ベートーヴェンの真髄にさらに肉迫していく。
4人のソリストには横山恵子、清水華澄、二塚直紀、大沼徹と、いま第一線で活躍中の名歌手がそろう。合唱は飯守との共演経験豊富な東京シティ・フィル・コーア。そして、好調を維持して充実の演奏を聴かせている東京シティ・フィルと、作品を知悉する飯守がすべてを包み込む。ベートーヴェン生誕250年を代表するような体験への期待が、いやがうえにも高まる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2020年2月号より)
第331回 定期演奏会
2020.2/22(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp