諏訪内晶子(ヴァイオリン)

ベートーヴェンから現代作品まで多様なプログラムが実現

C)Kiyotaka Saito
 諏訪内晶子が芸術監督をつとめ、2012年にスタートした「国際音楽祭NIPPON」。1990年のチャイコフスキー国際コンクール優勝以来、国内外で活発な演奏活動を続けてきた彼女が、音楽芸術の感動を届けること、未来に生きる人にむけて発信することをテーマに、経験から得たものを注いできた音楽祭だ。

 2020年は、第二次世界大戦の終戦から75年という節目であり、また諏訪内にとってはコンクール優勝から30年、加えて、大作曲家ベートーヴェン生誕250年でもある。第6回の開催に寄せて、これら数々の節目を意識した内容が用意された。

 3月10日、ジャナンドレア・ノセダ率いるワシントン・ナショナル交響楽団の公演では、バーバー、ドヴォルザークに加えて、諏訪内をソリストに、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が演奏される。諏訪内はノセダについて、「15年来共演を重ねているが、いつも熱く、同時に内に秘めた繊細さ、緻密さとともに音楽を作る方」と話す。節目の年、音楽人生を変えたレパートリーを、信頼するマエストロと奏でることになる。

 ベートーヴェンの記念年に寄せる公演としては、まず、諏訪内とニコラ・アンゲリッシュによるデュオ。かつて共演を重ねていた二人が、今再び、オール・ベートーヴェン・プログラムに取り組む。

 そしてこちらも記念年ならでは、新しいベートーヴェンとの出会いを届けてくれるのが、3月8日、13時から22時半まで、全3部にわたり行われる「ベートーヴェン 室内楽マラソンコンサート」。出演者も豪華で、海外からは第1回仙台国際音楽コンクールヴァイオリン部門の覇者として日本でも親しまれるブルガリアの名手、スヴェトリン・ルセフ、フランスの名チェリスト、アンリ・ドゥマルケット、そして日本人としては、諏訪内はじめ、成田達輝(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)、菊池洋子や阪田知樹(ピアノ)のほか、国内外のオーケストラで首席奏者として活躍する面々が集う。

 選曲にも趣向が凝らされ、一般的な曲だけでなく、二重奏曲「2つのオブリガート眼鏡付き」、ピアノ三重奏曲「街の歌」など、ベートーヴェンの魅力を伝える作品が幅広く取り上げられている。管楽器と弦楽器を含む珍しい編成の七重奏曲などは、名手の演奏で聴くことができる貴重な機会となるだろう。諏訪内は、「ベートーヴェンにはこういう面もあったという発見をひとつでも持ち帰って考えてもらえたら」と話す。

 そして今回からスタートするのが、2日間にわたる「室内楽プロジェクト」。デビュー以前から近現代作品が大好きだったという諏訪内による、意欲的な企画だ。

 3月11日の名曲プログラムでは、バッハ「シャコンヌ」、ブラームスのピアノ三重奏曲第3番、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲第2番という室内楽の王道作品を演奏。一方、13日の現代音楽プログラムでは、これらの演目に対比させ、ライヒ「ヴァイオリン・フェイズ」、川上統の組曲「甲殻」より、ダルバヴィのピアノ三重奏曲、オーンスタインのピアノ五重奏曲第2番を取り上げる。プランニングアドバイザーからの提案を受けつつ、20世紀のさまざまな室内楽曲を調べた末、自信を持って選んだという作品が揃う。諏訪内は「現代作品にも魅力的なものが多いことを伝えたい。素晴らしい作品は、演奏をしていても楽しい。解釈や演奏することが難しいものもあるけれど、間違いなく後世に受け継がれていくと思う。時代を超えて聴衆の方々とも共有したい」と話す。

 そのほか、諏訪内とルセフが講師をつとめるマスタークラス、愛知でのミュージアム・コンサート、さらに岩手での「東日本大震災復興応援コンサート in 釜石」など、広く社会に目を向けた企画も行われる。

 今、諏訪内が感じている音楽の喜び、これまで積み重ねてきた経験、そして未来に寄せる想い。そのすべてが結びついて催される音楽祭は、回を重ねるごとにますます充実度を増している。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2020年1月号より)

Profile
1990年、史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。これまでに小澤征爾、マゼール、デュトワ、サヴァリッシュ、ゲルギエフらの指揮で、ボストン響、パリ管、ロンドン響、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと共演。BBCプロムス、ルツェルンなどの国際音楽祭にも多数出演。2012年、15年、エリーザベト王妃国際コンクール、18年ロン=ティボー国際コンクール、19年チャイコフスキー国際コンクール ヴァイオリン部門審査員。12年より「国際音楽祭NIPPON」を企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。使用楽器は、日本音楽財団より貸与された1714年製作のストラディヴァリウス「ドルフィン」。

Information
国際音楽祭NIPPON 2020

◎諏訪内晶子 & ニコラ・アンゲリッシュ デュオ・リサイタル
2020.2/14(金)19:00 東京オペラシティコンサートホール 
2/15(土)14:00 愛知/三井住友海上しらかわホール

◎ミュージアム・コンサートⅠ  *中止 
2020.3/7(土)13:00 愛知/徳川美術館 講堂 
◎ミュージアム・コンサートⅡ  *中止
2020.3/7(土)19:00 愛知/トヨタ産業技術記念館 エントランス・ロビー 

◎諏訪内晶子プロデュース ベートーヴェン 室内楽マラソンコンサート *中止
2020.3/8(日)[第1部]13:00 [第2部]16:00 [第3部]19:30 ※終演予定 22:30 
東京オペラシティ コンサートホール

◎ジャナンドレア・ノセダ指揮 ワシントン・ナショナル交響楽団  *中止
2020.3/10(火)19:00 サントリーホール

◎諏訪内晶子 室内楽プロジェクト *中止
[Akiko Plays CLASSIC with Friends]
 
2020.3/11(水)19:00 紀尾井ホール
[Akiko Plays MODERN with Friends] 
2020.3/13(金)19:00 紀尾井ホール

問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 (東京開催) 
  アイ・チケット0570-00-5310 (愛知開催) 
https://www.japanarts.co.jp/imfn/
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。