並河寿美 (ソプラノ)

レオノーレは精神的にも“男前”でありたいですね

 重厚な外観と幻想的な雰囲気を持った内装で知られ、1963年10月の開場以来、数々の名演を生んできた日生劇場。同劇場開場50周年記念公演としてベートーヴェン唯一のオペラ、《フィデリオ》が登場する。何と同劇場での本作の上演は、名舞台として今なお語り継がれるカール・ベーム指揮&ベルリン・ドイツ・オペラによる伝説のこけら落とし公演以来となる。主役のレオノーレを演じる一人、ソプラノの並河寿美にも大きな注目が集まっている。
「以前、演奏会形式で歌った経験はありますが舞台で演じるのは初めて。しかもこの50年で日本のオペラ界がどう成長を遂げたか、その真価が試されるような重大公演とあってプレッシャーも感じますが、妥協を許さない飯守泰次郎先生の指揮のもとで、ドイツ・オペラのエッセンスを体感できることが嬉しく、楽しみでもあります」
 不当に監禁されている政治犯の夫を救出すべく、男装して牢獄に潜入する理想のヒロインを描いた、楽聖の金字塔ともいえる名作だが、歌い手に声楽技巧の限界を要求するような高い難易度でも知られている。
「ベートーヴェンが目指した、声で表現しうる究極の強さが求められるのを感じます。第1幕の有名なアリアもそうですが、特に第2幕で夫フロレスタンを殺害しようとする典獄長ピツァロの前に、銃を手に立ちはだかる場面からキープしにくい音域が延々と続き、高いテンションのまま言葉を聴かせるのは至難。でもそこにレオノーレの苦悩や張り詰めた感情、情熱が音楽と完全に融合してドラマティックに表現されていて見事としかいえません!」
 これまでにもヴェリズモ・オペラのヒロインや《トゥーランドット》などドラマティックな役柄には定評がある。
「でもレオノーレはこれまで演じてきた強いソプラノとは少し違って、時に女を忘れて男性になりきる瞬間も求められている気がします。いわゆる男装の麗人ではなく精神的にも“男前”に(笑)。そこが面白いですね」
 一方、9月の堺シティオペラではグノー《ロメオとジュリエット》の軽やかな声の役でも成功を収めている。
「ジュリエットは若くて華やかで演じていて楽しかった。レパートリーに関しては無理をせず、あくまで自分の声をベースに色合いを変えて対応できるものを選ぶように心掛けています。そうすればジュリエットの声の中に、レオノーレに応用できる部分をみつけたりもできますし。人の真似をせず、時にはノーと言うことも必要ですね」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2013年11月号から)

日生劇場開場50周年記念
ベートーヴェン 《フィデリオ》
★11月23日(土・祝)、24日(日)・日生劇場
問 日生劇場03-3503-3111
http://www.nissaytheatre.or.jp

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