エリアフ・インバル(指揮) 東京都交響楽団

鬼才が13年ぶりにタクトを執る「1905年」の凄み

エリアフ・インバル ©Rikimaru Hotta

 インバルが都響のプリンシパル・コンダクターを退き、桂冠指揮者となってから5年が過ぎたが、相変わらずの人気ぶりだ。インバルが振るとオケがぐっと締まり、磨きぬいた鋼のように硬質な輝きを発する。これがとりわけシンフォニックな大作に強い説得力を与えてきた。

 さて、今回の来日、11月の定期Aシリーズでは、ロシアの革命をテーマにしたショスタコーヴィチの交響曲第11番「1905年」が取り上げられる。これはペテルブルクの宮殿に行進した民衆を軍が襲った、いわゆる“血の日曜日”事件を描いたもの。

 第1楽章では朝もやに煙る宮殿のかなたから革命歌が響いてくる。第2楽章は事件の核心的な描写だ。圧政に苦しむ群衆の怒りが爆発した後、しばし不気味な静けさが戻ってくるが、鋭い銃砲を表すスネアドラムを合図に、鎮圧部隊が出現する。我先に逃げ出す民衆を軍が蹴散らし、あっという間に広場を制圧。死者を悼む第3楽章は重苦しく始まるが、勇壮で力強い賛歌へと発展し、フィナーレはそれを受けて労働者たちが立ち上がる。血まみれの広場を描いた本作に対し、前半は色欲に溺れた男女が地獄の業火に焼かれるチャイコフスキーの幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」が演奏される。凄まじいプロだ。

 ショスタコーヴィチがこの作品を発表した1950年代後半、世界は動乱に満ちていたが、昨今も世界各地で政治情勢は緊迫度を増している。ちなみに同月の定期Cシリーズ(11/16)では十月革命を描いた交響曲12番「1917年」も取り上げられるが、こちらも併せてインバルの剛毅なタクトが生み出す民衆と政治のドラマに思いを馳せたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年10月号より)

第890回 定期演奏会Aシリーズ 
2019.11/11(月)19:00 東京文化会館 
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp/