幕開けは得意の北欧・英国プロで華やかに
パッションの迸るダイナミックな指揮が人気の藤岡幸夫が、この4月に東京シティ・フィルの首席客演指揮者に就任した。関西フィルとの好調な共演は伝えられていたが、これからは首都圏でもその雄姿に定期的に触れることができそうだ。
就任披露となる同楽団7月定期には、自らのバックボーンを反映した選曲で臨む。まずはギリシャ神話に想を得たシベリウスの交響詩「大洋の女神」。様々な表情を見せる大海とそれを支配する女神のたおやかさを、シベリウスらしい爽やかな筆致で描いている。フィンランド人を母に持つ渡邉曉雄の最後の愛弟子として、シベリウスは藤岡がライフワークとする作曲家の一人だ。
続くピアソラ「ブエノスアイレスの四季」(デシャトニコフ編)では、ソリストに神尾真由子を迎える。チャイコフスキー・コンクールの覇者として注目を浴びて以降も、正統派ヴァイオリニストとして着実に歩んでいるが、今回は珍しくクロスオーバーに挑む。藤岡の情熱的なタクトの下で、新たな可能性が開かれるかもしれない。
名刺代わりの披露公演のメインを飾るのは、ウォルトンの交響曲第1番。渡邉に師事した後、藤岡はさらに英国に学び、キャリアの重要な部分もこの地で作ってきた。いわばイギリス人が納得するイギリス音楽の腕を本場で磨いたのである。ウォルトンの本作は、颯爽としたダイナミズム、陰りを見せながらも品位のある抒情、シンフォニーの醍醐味を味わわせてくれる壮大なフィナーレまで、モダンなバランス感覚が全編に漲る。聴きどころ満載の藤岡の十八番だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年7月号より)
第326回 定期演奏会
2019.7/26(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
http://www.cityphil.jp/