櫻井まゆこ(メゾソプラノ)

欧州を虜にするドラマティック・メゾの魅力

C)Naoya Yamaguchi
 イタリア・ミラノを拠点に、欧州オペラ・シーンの第一線で活躍するメゾソプラノの櫻井まゆこが、ヴェルディをはじめ、“王道”の名アリアを歌い尽くすリサイタルを開く。「作曲家から『まゆこ、ありがとう』と言われるような歌をうたいたい」と語る櫻井。本場の聴衆をも虜にする、圧倒的な歌声と表現力をぜひ体感したい。
「月並みですが、音楽は世界共通言語だと実感しています。日本人の私が、イタリア人の前で彼らの国のオペラを歌うと、泣いて喜んでくれる。音楽なしに、こんな魂の交流はできません。さらに、人類が永遠に誇るべき音楽を、私を育んでくれた日本で伝えるのも、言葉にできない幸せです」
 今回のステージは、昨秋と今春の帰国公演でも聴衆を熱狂させた、《ドン・カルロ》からの〈酷い運命よ〉など、ヴェルディの名アリアが軸に。さらに、ドニゼッティやマスカーニなど、傑作を厳選した。
「私の声で表現できる最高のものを、そして愛してやまぬ作品を。これらは、交流を続けている、往年の大歌手たちが『歌うべき』と背中を押してくれた曲でもあります。でも、その結果、大アリアばかりに…。『一晩で歌うなんて』と、呆れられてもいますが…。ベルカントでは、“レガート”の音楽が基本。“レガート”とは本来、『繋がっている』という意味で、何がかと言えば、母音です。さらに、作曲家が書いた、全ての音符には存在意義がある。それを実感できるまで勉強すると、歌にリアリティが出るのです」
 そして「まず自分が感じなければ、聴衆には届かない」とも。「瞬間ごと、全ての音や言葉、フレーズを自分のこととして感じ、歌っています。よく『あなたの歌は、体から流れ出るよう』と言われるのは、そのせいかも…」と語る。
 共演にはルーマニア出身のピアニスト、クリスティアン・アガピエ。
「これほど『音楽をもった』奏者を他に知りません。英仏伊、そして日本語も達者で、コレペティトゥール(オペラの練習ピアニスト)の経験も豊富。音楽を共に作る際、成り立たせる言葉が分からなければ、大雑把にしか作れません。その点、彼と共に歌うことは本当に幸せです」
 歌手を志したきっかけを「私は複雑な心を抱えた少女で、いじめられたことも…。でも歌っている時だけは、自由で幸せだった」と振り返る。そして、「私の歌を聴いた方々が、涙を流して喜んで下さる経験を重ねるうち、『私も、人の役に立てる』と実感し、至上の幸福を得ました」と続けた。
 目標とする歌手を「マリア・カラス」と即答。
「私にとって、歌とは“生きること”。呼吸と同じです。そして、夢は、ずっと歌い続けること。さらに、『あなたの歌で、人生が変わった』と、人々に感じてもらえる歌手になれれば、最高の幸せです。過去の偉大な歌手たちが皆、そうだったように…」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2018年12月号より)

櫻井まゆこ メゾソプラノ リサイタル 
2018.12/20(木)19:00 Hakuju Hall
問:ヴォイス・ファクトリイ チケットデスク03-3230-7770 
http://www.voicefactory.jp/

他公演 
2019.1/8(火)名古屋/宗次ホール(052-265-1718)