優勝は沖澤のどか、女性で初めての第1位そして36年ぶりに日本人が上位独占
10月8日から14日まで東京オペラシティで「第18回 東京国際音楽コンクール〈指揮〉」が行われた。今回のコンクール、応募は42の国・地域より238名あり、9ヵ国18名が事前審査にパスし参加、第一次予選で8名に絞られ、第二次予選を通過した4名が本選に臨んだ。
課題曲は第一次がハイドンの交響曲第82番、第二次が武満徹「弦楽のためのレクイエム」、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番、バルトーク「管弦楽のための協奏曲 第1・4楽章」。本選ではメンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」と、コンサート形式の自由曲だった。結果はリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」を振った沖澤のどかが第1位と齋藤秀雄賞、エルガーの「エニグマ変奏曲」(抜粋)を取り上げた横山奏が第2位と聴衆賞、ドヴォルザークの交響曲第7番 第1・4楽章を振った熊倉優が第3位となった。
このコンクールは審査が厳しいことで有名で、過去には1位どころか3位まで出なかったこともある。ところが今回は1位が選出されただけでなく、日本人の1位は18年ぶり、女性の1位は50年を超える歴史を持つ同コンクールでは初となった。沖澤は東京藝術大学指揮科首席卒業。2015年よりハンス・アイスラー音楽大学ベルリン指揮科修士課程入学。田中良和、尾高忠明、高関健、クリスツィアン・エーヴァルトらに師事した。
翌15日の記者会見には3位までの3人が審査委員等と共に壇上にあがった。外山雄三審査委員長は「若い時期に厳しく精密な審査を受けることは良い経験となったはず。今後国際的なキャリアを歩んでいく入賞者を応援して欲しい」とコメント。それを受けて沖澤は「身が引き締まる思い。気負うこと無く地道に勉強を続けていく」と控え目だが地に足を付けた喜びを語った。
多くの一般聴衆が詰めかけた中での歴史ある指揮者コンクール。その選考プロセスに注目が集まるが、「一次、二次では五段階評価で誰を残すか、本選では誰が1位か」(尾高忠明委員)が基準だった。最後まで演奏できないハイドンでは、「完成形でなく何を見せられるか」(ウェルナー・ヒンク委員)がポイントで、本選では異論がほとんど出ることなく短時間で結論が出たという。それだけ沖澤が好印象だったようで、本選前半のメンデルスゾーンでの指揮ぶりは抜きん出ていて「指揮ぶりが美しかった」(ユベール・スダーン委員)とのことだ。
気になる自由曲での評価も同様。本選で演奏した新日本フィルは「ドン・ファン」をこの9月に取り上げたばかり、ドヴォルザーク「7番」は昨年に演奏した。一方、「エニグマ変奏曲」は長らく演奏していなく、どの部分を演奏するかは審査委員会から直前に指定された。だが、「そのような違いも審査委員は考慮している」とのこと。難易度も同じとは言えないが、様々な要素を考慮した選曲が参加者には求められるということだ。
上位3位全員が日本人となったが、決して地元贔屓ではなく、「かつてソ連にもあったような指揮スクール(楽派)が、今は日本にあるという結果」(アレクサンドル・ラザレフ委員)との言葉があった。
取材・文:山田真一
2018年 第18回 東京国際音楽コンクール〈指揮〉
http://www.conductingtokyo.org/