渾身のラフマニノフ、そして数々の名曲たちに浸る一日
近年ますます成熟を深めているピアニストの長富彩が、11月2日に浜離宮朝日ホールにて昼・夜2回公演のリサイタルを行う。ランチタイムは「古典派からロマン派への転遷」と題された名曲プログラム、そして夜はオール・ラフマニノフ・プログラムだ。
「年に一度は、いつもより重い課題を自分に課した“挑戦”のリサイタルを開くことにしています。1日2回公演、しかも夜がしっかりしたプログラムという状況は初めてですが、浜離宮朝日ホールはデビュー・リサイタル以来となる特別な場所ですし、思いきって挑戦してみることにしました」
ラフマニノフは、長富がもっとも大切にしている作曲家。しかし、一時期は思いの強さゆえに、演奏することを避けていたという。
「自分が表現したいことを、表現するための技量が、身体面・精神面ともに追いついていないと感じていた時期があったのです。そう思い込んでしまうと弾くのが怖くなって…。でも、今年1月に大阪のザ・シンフォニーホールでオール・ラフマニノフ・プログラムを演奏させていただき、“ああ、こういう風に弾いて正解だったな”と自分の解釈に自信を持つことができました」
ピアノ・ソナタ第2番では、1931年の改訂版ではなく、13年の原典版を取り上げる。
「ずっと改訂版を弾いてきて、原典版をはじめて聴いたときは、捉えどころがないというか、“そこは繰り返さなくてもいいのではないか?”と思うような箇所も多々あり、あまり好きになれませんでした。でも、今ではそんな原典版の泥臭さが好きです。今回のリサイタルでは、ラフマニノフの美化された面だけでなく、そうでない面も含めてお客さまにお届けしたいと思っています。技巧的なエチュードがあり、美しい歌曲のトランスクリプションがあり、作曲当時はあまり評価されなかったソナタ第2番があり…。あらゆるエッセンスを通して、この作曲家の一つの像を結ぶことができたらと」
一方のランチタイム公演には、「きらきら星変奏曲」「エリーゼのために」「小犬のワルツ」など、誰もが知るメロディが並ぶ。後半にチャイコフスキーが入っているのは、夜のラフマニノフへと続く流れを意識したものだろうか。
「その通りです。ラフマニノフはチャイコフスキーを非常に尊敬していましたし、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンなども含め、こうした作曲家たちがいたから、ラフマニノフが生まれたという歴史の流れを感じていただきたいと思いました。じつは最近、プレイエルのピアノでショパンを練習中なので、モダンピアノでの演奏にも、その成果が表れるかもしれませんね」
表現したいことがどんどん出てきて、ワクワクしていると語る彼女の“今”を聴きに行きたい。
取材・文:原 典子
(ぶらあぼ2018年9月号より)
長富 彩 ピアノ・リサイタル 2018.11/2(金)
昼公演 古典派からロマン派への転遷 11:30
夜公演 渾身!!ラフマニノフ 19:00
浜離宮朝日ホール
問:テレビマンユニオン03-6418-8617
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