1990年にロン=ティボー国際コンクールのヴァイオリン部門で、日本人として初の覇者となった小林美恵。わが国を代表する名手として活躍を続ける小林による、バッハの無伴奏録音は、スケールの大きな音楽創りが印象的だ。楽器を存分に鳴らし切り、暗示に終始しがちな和声も、可能な限り現出。「ソナタ第1番」のアダージョや「パルティータ第1番」のサラバンドなど、緩やかなテンポ取りながら、フレーズが息切れしたり、流れが滞ったりは一切ない。一方で、弓遣いやヴィブラートひとつにも、繊細な心配りを行き渡らせ、ひたむきに「モダン楽器だからこそ、可能な表現」が追究されてゆく。
文:笹田和人
(ぶらあぼ2018年8月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ(全曲)/小林美恵』
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第3番、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番〜第3番
小林美恵(ヴァイオリン)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00664(2枚組) ¥3500+税