選曲は橋本(1904〜49)のほぼ全創作期にまたがる。それを年代順に収録したことで改めて気づくのは、語るように歌う朗唱的な様式や、当時すでに無調的書法も持ち込んで日本歌曲史上の特異点だった橋本が、その方面の代表作である〈舞〉〈黴〉〈斑猫〉などと、〈お菓子と娘〉や一連の新民謡などの明快な様式の作品とを、並行して同時期に書いていたという、その多様さ。そして、シェーンベルクとも交わった留学後に、逆に彼にその先鋭さを失わせた戦時期の時代背景にも思いをはせる。小川の歌唱は、完璧なコントロールと自在な表現に毎度ながら感服。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2018年6月号より)
【information】
CD『お菓子と娘 橋本國彦歌曲集/小川明子&山田啓明』
橋本國彦:なやましき晩夏の日に、牡丹、芭蕉、薊の花、城ヶ島の雨、お菓子と娘、黴、斑猫、旅役者、百姓唄、親芋小芋、お六娘、舞、落葉、田植唄、母の歌、大君に、戦ふ花、アカシアの花 他
小川明子(アルト)
山田啓明(ピアノ)
ナミ・レコード
WWCC-7864 ¥2500+税