溢れ出る音楽性と知性を体感させるピアニズム
フィンランドが誇るピアノの名匠、アンティ・シーララが3年ぶりに来日。ベートーヴェンのソナタ第21番「ワルトシュタイン」を軸としたリサイタルで、溢れ出る音楽性と美音を披露する。リーズ国際ピアノコンクールをはじめ多くの登竜門を制し、世界の注目を一身に集め、進化を止めぬ彼の“いま”を体感したい。
「『ワルトシュタイン』は、オープンでヴィルトゥオージック。ワクワクするような作風が多くの奏者を虜にしますが、作曲当時いかに画期的な音楽であったかを忘れられがちです。リズミカルなエネルギー、ハーモニーとモティーフのまとまりなど、全曲を通して、当時の聴衆には初めての経験でした。ちょうど交響曲第3番を作曲していた時期で、ベートーヴェンの“英雄”的表現は極致にあったのです。このような音楽を理解するのに、近道はありません。感情的で、ピアニスティックで、歴史的視点を持ち、分析的でもあります。ですから、多くの時間が必要ですし、作品に少しでも近づき深く理解するために、一生を通して勉強し続けなければなりません」
時代や地域を超越しつつ、緻密に関連づけ、共鳴させるプログラミングも魅力。今回はまず、ショパン「3つのマズルカ op.56」を組み合わせる。
「ショパンのマズルカは、高い精神性を持つ傑作です。また、最初と最後の曲はプログラム全体のハ長調・ハ短調の核をなし、続くシューマン『幻想曲』へと美しく繋がります。びわ湖ホールでは、これを『ワルトシュタイン』の前に弾きます。実は、最後の和音が、ベートーヴェンの最初と同じ。見事な架け橋となるのです」
シューマンの「幻想曲」について「私にとって、最も重要な作品」と語る。
「作曲者自身やベートーヴェンの人生、そして古典主義とロマン主義にも繋がりを持つ、他の何にも代え難い圧倒的な曲です。私は通常と別の終結部(初稿版)を選択しましたが、これは第1楽章と美しく結びつきます」
さらに、すみだトリフォニーホールでは、故国を代表する作曲家で、シーララも「実際に何度もお会いした」というラウタヴァーラの「イコン」も演奏する。
びわ湖ホールでは、新たにスタートする「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」への登場となる。まずは大植英次指揮の大阪フィルと共演、「複雑さはないが、決して易しくない。シンプルさへの道は時に困難です」と評する、グリーグの協奏曲を弾く。翌日に開くリサイタルは、音楽祭のコンセプトに合わせて、通常の演奏時間よりも短めに設定。「全体的な負担が軽くはなりますが、入念な準備に変わりはありません」と真摯な人柄をのぞかせた。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2018年4月号より)
アンティ・シーララ ピアノ・リサイタル
2018.5/1(火)19:00 すみだトリフォニーホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
http://www.pacific-concert.co.jp/
近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2018
大阪フィルとの共演 2018.5/4(金・祝)14:15 びわ湖ホール(大)
リサイタル 2018.5/5(土・祝)12:30 びわ湖ホール(中)
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
http://bc2018.biwako-hall.or.jp/