春の訪れが上野の森を音楽で満たす。「東京・春・音楽祭」が2018年3月16日から4月15日までの約1ヵ月間にわたって開催される。会場は東京文化会館や東京国立博物館、東京都美術館他の文化施設など。今回もこの音楽祭ならではの好企画がずらりと並んだ。注目公演をいくつか選んでみよう。
まず筆頭に挙げられるのは、音楽祭の目玉ともいうべきワーグナー・シリーズ第9弾《ローエングリン》(4/5,4/8)。同作は11年に上演が予定されながら、東日本大震災の影響でやむなく中止となっていたもので、7年越しに待望の公演が実現する。ローエングリン役にはクラウス・フロリアン・フォークト(テノール)が招かれる。甘美でありながら雄渾な最強のローエングリンといってもいいだろう。エルザ役のレジーネ・ハングラー(ソプラノ)他、充実のキャストがそろう。10年の《パルジファル》で名演を聴かせてくれたウルフ・シルマー指揮N響のコンビも楽しみ。
「合唱の芸術シリーズ」第5弾では、来年没後150年を迎えるロッシーニの「スターバト・マーテル」が歌われる(4/15)。古今の「スターバト・マーテル」のなかでも屈指の傑作に数えられる本作を歌うのは、東京オペラシンガーズとエヴァ・メイ(ソプラノ)をはじめとする独唱陣。スペランツァ・スカップッチ指揮の都響とともに、ドラマティックで壮麗な祈りの音楽が奏でられる。
小ホールで旬の歌手を聴くことができるのもこの音楽祭の大きな魅力。バスバリトンのトマス・コニエチュニーは故郷ポーランドのシンフォニエッタ・クラコヴィアとの共演で、マーラーの「亡き子をしのぶ歌」他を歌う(3/16,3/17)。また、好評の「歌曲シリーズ」では、フォークト(3/26,4/11)とソプラノのペトラ・ラング(3/23)が登場する。フォークトの公演は2夜にわたり、オーソドックスなドイツ歌曲と、オペレッタやミュージカルナンバーまでを含めたバラエティに富んだ2種類のプログラムが用意される。
音楽祭を彩るピアニストたちのなかでもとりわけ意欲的なプログラムで目をひくのは、エリーザベト・レオンスカヤとコンスタンチン・リフシッツのふたり。レオンスカヤは6日間のシューベルト・チクルスを敢行し、円熟のピアニズムを披露する(4/4〜4/14)。シューベルトのピアノ・ソナタをこれだけ集中的に聴ける機会は貴重だ。リフシッツは2日間にわたるバッハのピアノ協奏曲全曲演奏会に挑む(3/30,4/1)。かねてよりバッハに情熱を傾けるリフシッツは、指揮も兼務してトウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアをリードする。リフシッツ流の情感豊かなバッハを満喫できそうだ。
その他の公演では、弦楽三重奏のための傑作を集めた「ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽」(4/14)、日本の名手たちが集う「ベンジャミン・ブリテンの世界Ⅱ」(3/19)が好奇心を刺激する。
百花繚乱の春に向けて期待が高まる。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2017年12月号より)
東京・春・音楽祭 ―東京のオペラの森2018―
2018.3/16(金)〜4/15(日)
東京文化会館、東京芸術大学奏楽堂(大学構内)、上野学園 石橋メモリアルホール、国立科学博物館、東京国立博物館、
東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館、東京キネマ倶楽部 他
問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-6379-5899
※各公演の発売日などの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.tokyo-harusai.com/