シューベルト生涯最後の心境を表現したいと思います
今峰由香は、関西学院大学文学部卒業後にミュンヘン国立音楽大学及び同大学院、さらにローマ・サンタ・チェチーリア音楽院にて研鑽を積み、2002年には弱冠32歳の若さでミュンヘン国立音楽大学ピアノ科教授に就任したという驚きのキャリアを誇るピアニスト。シューベルト国際コンクールでの優勝経験もあり、文字通りシューベルトのスペシャリストである彼女が、シューベルト最後のピアノ・ソナタ(第20、21番)によるリサイタルを東京と大阪で行う。
「シューベルトは日本でも最近はソナタがよく演奏されるようになってきましたが、ヨーロッパでは留学生活を開始した頃から本当によく弾かれている作曲家で、多くの演奏会に聴きに行った記憶があります。私にとっては本当に身近な作曲家なのです」
幅広いレパートリーをもつ今峰だが、今回はあえてシューベルトの“遺書”ともいえる2曲のソナタに取り組むことを決めた。
「シューベルトが死ぬ前に見ていた世界が凝縮された名曲を、改めて聴いていただきたいという想いから選びました。これらのソナタは歳を重ねた巨匠が弾くような作品として見られがちですが、彼がこの曲を書いたのは30歳や31歳のとき。その若さで人間の深淵や天国的なものへの憧れを描き出しているのです。しかも、何かをひたすら追い求める強い気持ちも感じます」
シューベルトの作品の多くには“さすらい”がテーマとしてあるという。それは楽曲で頻繁に行われる転調にも表されており、彼の作品では“調”への感覚が非常に重要となる。
「彼のさまよう心がたくさんの転調でよく表現されていますよね。シューベルトにとって、幸福は夢の中でしかありませんでした。一般的には長調は明るい、短調は悲しいという認識がありますが、彼の場合は長調の中にいつも悲しみがあります。今回演奏する作品も両方長調ですが、絶えず渇望に満ちていて、歌曲集『冬の旅』の精神に通じるものを感じます」
人間のあらゆる感情や現世を超越した世界観をもつシューベルトの作品に新しい気持ちで取り組む今峰。特に昨年はベートーヴェンに集中的に取り組んできたこともあり、また違う気持ちでシューベルトに向き合っている。
「シューベルトの作品は旋律の息が非常に長いので、下手をすれば本当に退屈になってしまう危険も孕んでいます。ただ、素晴らしい演奏で聴けば、時を忘れ、違う世界にいるような感覚を与えてくれるのです。私も聴いてくださる方がそういう感覚になるような演奏ができればと思っています」
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2017年12月号から)
今峰由香 シューベルト 最後のピアノ・ソナタ
2017.12/21(木)19:00 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール
12/22(金)19:00 Hakuju Hall
問:KCMチケットサービス0570-00-8255
http://www.kojimacm.com/