山碕智子(ヴィオラ/ロータス・カルテット)

 シュトゥットガルトを拠点に活動するロータス・カルテット。25年にわたって活動を続ける息の長い弦楽四重奏団だ。その中の3人による弦楽三重奏を聴く希少な機会が、宝塚ベガ・ホールで1日だけ訪れる。ヴィオラの山碕智子に話を聞いた。
「十数年前に2回ほど、3人だけで弾いたことはありました。結構手応えはあって、かなり楽しめたんですけど、そのときは三重奏を続けていく気持ちにはならなかったですね。そのあとも年に1度ぐらい、小品を3人で弾くこともありますが、レパートリーがクァルテットとは比べられないほど少ないですから」
 今回はセカンド・ヴァイオリン(=マティアス・ノインドルフ)を除くメンバー3人が、9月のいずみシンフォニエッタ大阪の演奏会に客演首席奏者として呼ばれたために急遽実現した。小林幸子(ヴァイオリン)、山碕智子(ヴィオラ)、齋藤千尋(チェロ)の3人は、ロータス・カルテットの古くからのメンバーだ。曲目はベートーヴェンの作品9の3曲の弦楽三重奏曲。1797年から翌年にかけて作曲された、ウィーン時代初期の作品である。
「普段は四重奏ばかりなので、まだ作品9全部を弾いたことはないんです。逆に言えば、お客さまにとっても、こういう機会はなかなかないということでしょうか。3曲目のハ短調だけは前に3人で弾いています。作品18の6曲の弦楽四重奏曲でいうと第4番に当たる感じで、カチッとしていて、これが一番入りやすいですよね」
 (習作を除けば)最初の弦楽四重奏曲である作品18はこの作品9に続いて書かれた。四重奏のほうが生涯にわたって書き続けられてベートーヴェンの全創作を代表するジャンルになったのと対照的に、三重奏曲はこれが最後。独特の存在感を放つジャンルなのだ。
「ヴィオラ奏者の立場から見て、四重奏曲とはまったく違うキャラクターなんです。ソロを弾いたと思ったら、真ん中で伴奏形を一人で弾かなければならなかったり、チェロと一緒にバスを弾かされたり、とにかくあちこちに行かなくてはならない。だから最初にこの三重奏曲を聴いた時は、すごく難しいと思いました。ベートーヴェンって、いろんなことを書くんだな、奏者にいろんなことをやらせるんだなぁと。若さと意気込みをそのまま書いたみたいな、彼の頑張りが見える曲だと思います」
 ちなみに、4人で弾く時と一番違うことは? と尋ねると、「うーん。あえて言うと、練習がドイツ語か日本語かですね(笑)」。
 当然だけれど、音楽と向き合う姿勢は、四重奏でも三重奏でも変わらない。ベートーヴェン好きにとって必聴のコンサートとなりそうだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2017年9月号より)

ベートーヴェン 3つの弦楽三重奏曲 op.9 全曲演奏会
2017.9/24(日)16:00 宝塚ベガ・ホール
問:KCMチケットサービス0570-00-8255 
http://www.kojimacm.com/