ドゥエニャスが幼い頃からハイフェッツの何に魅せられてきたのかが、この演奏を聴くとよくわかる。音にしっかりとした芯とコシがあり、旋律は柔軟で強靭な弾力材に包まれたようにしなやかに歌う。そこへ時折パンチの効いたアクセントが打ち込まれ、歌心そのものが強い情動へと変わってゆく。卓越した技巧と豊かな叙情性を一体化したハイフェッツのスタイルを受け継ぎつつも、古き良き時代の回顧を超えて自由で現代的な感性へと発展させた演奏だ。二つの協奏曲の後にハイフェッツが愛奏したドビュッシーやポンセの小品を配した構成も心憎い。オマージュの精神がアルバム全体を貫いている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2026年10月号より)


【information】
CD『ハイフェッツへのオマージュ/マリア・ドゥエニャス』
ラロ:スペイン交響曲/コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲/ドビュッシー(M.シュピンドラー編):前奏曲集より「亜麻色の髪の乙女」/ポンセ(ハイフェッツ編):エストレリータ 他
マリア・ドゥエニャス(ヴァイオリン)
グスターボ・ドゥダメル(指揮)
シモン・ボリバル交響楽団
イタマール・ゴラン(ピアノ)
ユニバーサル ミュージック
UCCG-45139 ¥3300(税込)
