INTERVIEW 柴田俊幸(たかまつ国際古楽祭 芸術監督)|高松・川口・栃木・藤沢で届ける古楽の愉しみ

 フラウト・トラヴェルソ奏者として、現在、ベルギーとフランスで教鞭をとりながら演奏活動を行い、当ウェブサイトの連載「古楽とその先と」のプレゼンターも務める柴田俊幸が、この10月に一時帰国する。芸術監督として9回目を迎える地元・香川の「たかまつ国際古楽祭」をはじめ、アントネッロによるバッハ「マタイ受難曲」への出演、栃木市でのデュオ公演など、各地のステージで古楽の楽しさを届ける。帰国を前に、オンラインで話を聞いた。

柴田俊幸 ©sightways

――たかまつ国際古楽祭(10/30〜11/2)は今年で9回目。すっかり定着してきた印象がありますが、地元・高松での反響はいかがですか。

 29歳で始めたこの音楽祭も、気づけば9回目。時間が経つのは本当に早いです。「古楽」という言葉を知っている人も増えたと思います。そのせいか、「古学」という誤植もだいぶ減りました(笑)。

 ここ2、3年は若干奇抜なポスターが続いていますが、そのビジュアルをきっかけに、古楽というジャンルの存在を知ってもらう。それもひとつの入口になっていると思います。

――毎年、ちょっと変わったテーマを掲げていますが、今年は……?

 「四国と四季のピザ祭り イタリア古楽、焼き上がりました!」です。イタリアのバロック音楽といえばヴィヴァルディの「四季」ですが……今回はあえて、それを演奏しません!

第9回たかまつ国際古楽祭メインビジュアル

 中世からルネサンス、初期バロックへ。モンテヴェルディやコレッリをはじめ、まだあまり知られていないイタリア音楽の魅力を掘り起こします。さらに、イベリア半島や北ヨーロッパなど、国境を越えて広がったイタリア様式の音楽にも注目します。  とはいえ、地元のイタリア料理店には、四国4県の名産品を使った古楽祭限定の「Quattro Stagioni(四季のピザ)」を提供してもらうなど、瀬戸内という土地を生かした「食」とのコラボレーションにも、毎年力を入れています。やっぱり、おいしいものを食べて音楽を聴くのが心と体にとっての一番の健康ですから!

――今年は、海外から招聘するアーティストも例年以上に多いですね。

 「たかまつ」は、いわば古楽の見本市。次世代の実力派アーティストをどんどん紹介していく場でもあります。
 東京の北とぴあ国際音楽祭にも出演するベルギーの声楽アンサンブル「ディオニュソス・ナウ!」は、2020年の結成以来、世界各地の音楽祭に招かれているグループです。ルネサンスのポリフォニーの魅力を見事なハーモニーで聴かせてくれるでしょう。

ディオニュソス・ナウ!

 フィンランドからは、中世音楽アンサンブル「アモール・セウ」が来日します。ヴォーカル、フィドル、中世ハープ、パーカッションなどを3人のマルチプレイヤーが操るグループです。プリミティブで、初めて聴くのにどこか懐かしく感じる音楽。中世よりはるか昔から人々の営みがあった瀬戸内の島々に響いていても不思議ではない――そんな気がして、今回招聘しました。
 ベルギー・フランダース政府やフィンランド文化財団の助成のおかげで、彼らの来日が実現しました。

アモール・セウ

――ほかにも、ガラ・コンサートを中心に国内外の多彩なアーティストが揃いますね。

 リコーダーの名手、アントネッロの濱田芳通さんが、ヴィヴァルディのリコーダー協奏曲の第2楽章を演奏してくれます。きっと装飾盛り盛り、替え玉付きで演奏してくださると思うので、個人的にもとっても楽しみです(笑)。

 私と同じくパリを拠点に、さまざまなアンサンブルで活躍しているヴァイオリニストの出口実祈さんも、再び古楽祭に出演してくれます。それから、ガラで演奏する予定のロンドンでヘンデルのライバルだったポルポラのフルート協奏曲ニ長調も聴きどころです! おそらく日本初演ではないでしょうか。

 さらに、ラ・プティット・バンドで一緒だったヴァイオリニストのアン・クノップさんも急遽参加することになり、今年も国際色豊かな顔ぶれになりました。

――瀬戸内の島も含め、いわゆる音楽ホールだけでなく、ユニークな会場が多いのも古楽祭の特徴です。今後、どのような音楽祭を目指していきたいですか。

 故郷を離れて20年になりますが、高松と古楽を通じて、ずっと実験を続けているような感覚があります。芸術的な意味での実験だけではなく、音楽と観客、そしてそれらが出会う場所と時間が、社会にどのような影響をもたらすのか。それを問いかける場でもあります。

2025年のガラ・コンサートより
2024年の直島公演より

 2,000人規模のホールで有名アーティストを聴くことだけが、クラシック音楽との出会いである必要はないと思っています。聴く側が、それがどんなジャンルなのか、誰が何を演奏しているのか、その背景まで知らなければ楽しめない、ということもありません。  極端に言えば、「心地よい音楽だったかどうか」、そして「どんな体験をしたか」のほうが、もっとダイレクトに響くのではないでしょうか。古楽祭のバロメーターは、うちの親父なんです(笑)。クラシック音楽をまったく知らない父でも楽しめる企画やプログラミング、解説を意識しています。線を引かないこと。それを、ずっと続く高松の伝統にしていきたいです。

 古楽祭で生まれたつながりは、高松の外へも広がっている。10月27日には神奈川・藤沢で、今年の出演者たちによる「たかまつ国際古楽祭 in 湘南」が開催される。

――高松まで足を延ばすのが難しい首都圏の方にとっては、古楽祭の雰囲気に触れられる機会になりそうですね。

 はい。先ほどお話ししたアン・クノップさん、出口実祈さんたちと、モーツァルトのフルート四重奏曲を演奏します。  18世紀後半のハイドンやモーツァルトの音楽は、現在、古楽器では一般的にA=430Hz前後のピッチで演奏されますが、今回はあえて、バロック音楽でよく用いられる415Hzを採用します。また、コントラバス奏者の布施砂丘彦さんには、フランス・バロック音楽で重要な低音楽器、バス・ド・ヴィオロンで参加していただきます。
 「もしモーツァルトを、18世紀後半のフランスかぶれの演奏家たちが演奏したら?」という、ちょっと風変わりな試みです。いつものモーツァルトとは少し違った響きになると思いますので、ぜひ楽しみにしていてください。

アン・クノップ

 なお、クノップさんは大阪でバッハのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ全曲演奏会もありますので、関西方面の方はこちらもぜひ!

 今回の帰国では、このほかにも柴田ならではの顔合わせが続く。10月11日には優れた音響で知られる栃木市のホリ電コスモスホールで、日本を代表するチェンバロ奏者のひとり、中野振一郎とのデュオに臨む。

――中野さんとは、帰国のたびに共演を重ねていますね。

 昨年ツアーを一緒にしたアンソニー・ロマニウクには、まるで宇宙人のようなところがあって、その音色には地球外生命体みたいな潔癖さがあります。一方、中野さんはその対極。人間離れしたテクニックはもちろんですが、中野さんの音には、とにかく「人間の熱さ」があるんです。

中野振一郎 ©Yuri Manabe

 天真爛漫さから泥臭さ、さらにはファンクや関西のノリまで。人間の持つさまざまなドラマが、その通奏低音の中を行き交っているように感じます。ボケとツッコミのようなデュオでの柔軟性、そしてフランス・バロック音楽への深い理解から生まれる引き出しの多さは、世界でもトップ5に入るのではないかと思っています。そんな中野さんと、日本に帰るたびにご一緒できることが本当に嬉しいです。

――そして今回の帰国最初の舞台となるのが、濱田芳通さん率いるアントネッロのバッハ「マタイ受難曲」です。どのような期待がありますか。

 アントネッロの魅力は、何よりもマエストロ濱田による「古典の音楽劇化」にあると思っています。

アントネッロ第18回定期公演 J.S.バッハ「ミサ曲ロ短調」より ©ヒダキトモコ

 濱田さんの専門は、バッハよりさらに前の時代の音楽です。だからこそ、私たちが当たり前だと思っている音楽の見方そのものを、違った角度から捉えることができる。2024年11月のバッハ「ミサ曲ロ短調」や今年3月のモーツァルトもとても新鮮でしたし、同じ作品であっても毎回違う発見があります。
 アントネッロは、日本のクラシック音楽界にとって、ある意味で「救世主」のような存在だと思っています。「マタイ」はこれまで何度も演奏してきましたが、ドイツ語のテキストが持つリズムの硬さと、アントネッロの流暢な音楽づくりがどう結びつくのか、とても気になっています。作品にある人間ドラマを、濱田さんがどう料理するのか楽しみです。

【Information】
〈柴田俊幸 出演公演〉
【川口リリア リオープン記念公演】
濱田芳通&アントネッロ J.S.バッハ「マタイ受難曲」

2026.10/3(土)、10/4(日)各日15:00 川口総合文化センターリリア 山伸サステインホール(音楽ホール)
Anthonello
https://www.lilia.or.jp/event/3645

古楽器レクチャーコンサートVol.3
古楽の方舟~羅針盤の指す先は、十八世紀ヨーロッパ~

10/11(日)15:00 栃木/ホリ電コスモスホール(岩舟文化会館)
古楽の方舟
出演:柴田俊幸(フラウト・トラヴェルソ/リコーダー) 中野振一郎(チェンバロ)

J.S. バッハ:協奏曲 ニ長調 BWV 972 (チェンバロ独奏)  
F.クープラン:王宮のコンセール第1番ト長調  
F. ヘンデル:フルート・ソナタニ長調HWV378    
A.コレッリ:ヴァイオリン・ソナタ ハ長調 op.5-3(1754年フルート編曲版)
J.S. バッハ:フルートソナタ イ長調 BWV1032
https://www.tochigi-bunka.jp/event/21092/

鵠沼サロンコンサート「たかまつ国際古楽祭 in 湘南」
2026.10/27(火)14:30 神奈川/レスプリ・フランセ(藤沢)

出演:柴田俊幸(芸術監督・フルート)、アン・クノップ(ヴァイオリン)、出口実祈(ヴィオラ)布施砂丘彦(バス・ド・ヴィオロン)

モーツァルト:フルート四重奏曲(全4曲)
https://kugenumasalonconcert.jimdofree.com

第9回たかまつ国際古楽祭
2026.10/30(土)〜11/2(月)
穴吹学園ホール(旧 高松テルサ)、高松市美術館 1階 エントランスホール、たかすの杜、玉藻公園 桜御門、直島ホール ほか
出演:ディオニュソス・ナウ!(ポリフォニー・アンサンブル) アモール・セウ(中世アンサンブル) アン・クノップ(ヴァイオリン) 濱田芳通(リコーダー/コルネット) 出口実祈(ヴァイオリン) 長谷川太郎(ドルツィアン) 布施砂丘彦(バス・ド・ヴィオロン) 竹岡幸平(チェンバロ、オルガン) 中山美紀(ソプラノ)
https://mafestivaltakamatsu.com