INTERVIEW 金子三勇士
ベートーヴェンとリストー節目に刻む原点

©Seiichi Saito

 デビュー15周年を迎えた金子三勇士。一人でも多くの人に生の演奏を届けたいと、各地でアウトリーチや演奏を行い、昨年ついに正式な公演で全47都道府県への訪問をクリアしたという。

 「意外と最後まで残ったのが岡山と山梨でしたが、こうしてあちこちで演奏させていただけてありがたいですね! その中で多くの方から“初めてコンサートに来た”という声をいただいています。それをきっかけにコンサートに通うようになった方もいるかもしれません」

 金子にとって、母の祖国ハンガリー生まれの大作曲家であるリストは特別な存在だ。社会貢献に熱心だった彼のスタンスを模範とし、「21世紀のリストを目指す」ことを目標とする。

 「社会の変化をよく見て、必要な時はそこに寄り添いながら、次の15年も活動していきたいです」

 そんな周年の中心企画となるリサイタルには、ベートーヴェンとリストのピアノ・ソナタばかりという、シンプルかつ重いプログラムを選んだ。

 「私の音楽観において究極に無駄をそぎ落としたところ、自分の原点、大切なビジョンを示すものとして、ベートーヴェンの三大ソナタとリストのロ短調ソナタが並びました」

 さまざまな名演が残る有名曲を演奏するうえで心がけるのは、どんなことだろうか?

 「一番は、伝統的な解釈に引っ張られないことです。作曲家の意図にフォーカスして改めて楽譜を読むと、それは必ずしも今主流の解釈と一致するわけではありません。当時と現代のピアノは違うのでそこは考慮しつつ、作曲家が何を求めていたのかを考えて自分の解釈を見つけ、自信を持って提示したいです」

 リストのソナタは「5年ごとの節目に取り上げ続けたいとデビュー時から思っているレパートリー。90歳になっても弾いていたい」と話す。

 「若い頃に情熱で弾いていた時とは見えるものが違います。改めて練習していると、なぜここに気づかなかったのだろうとか、テンポを落とすことで内声部をもっと聴かせてみたいとか、思った以上に多くの発見があります」

 感じるメッセージも変化しているという。

 「昔は暗い面を強く感じていましたが、今は希望や前向きな兆しを感じるようになりました。暗いニュースが多い今、社会が求めているものが明るさだからかもしれません。そもそも、リストがそのどちらの要素も引き出せるように作品を書いていた、ということなのかもしれませんね」

 今を生きるピアニストの使命を果たすべく、大きな挑戦となるプログラムに取り組む。

取材・文:高坂はる香

(ぶらあぼ2026年8月号より)

日本デビュー15周年記念 金子三勇士 ピアノ・リサイタル
2026.10/18(日)16:00 東京オペラシティ コンサートホール

問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp


高坂はる香 Haruka Kosaka

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/