ソロ・マリンバ奏者として数多くの委嘱作品を初演し、国際的に活動する小森邦彦が、次代を担う若手打楽器奏者たちとともに、さまざまな編成の打楽器作品を集めた公演「Time for Percussion 2026」を9月に開催する。

掲げるのは、「パーカッシブ・アーツのテッペンを一晩で」という刺激的な言葉。マリンバ独奏から、打楽器八重奏+ピアノによる作品まで、現代の打楽器音楽の広がりと高度な演奏技術を示す5作品が並ぶ。「パーカッションは、最も頻繁に新作が生まれる可能性を秘めたジャンル」と語る小森に、公演に込めた思いをメール・インタビューで聞いた。
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――1980年代から2020年代までの作品が並び、編成も多岐にわたります。なぜ、この5作品を選ばれたのでしょうか。
小森 世界的な巨匠であるアレハンドロ・ヴィニャオをはじめ、今回取り上げる作品の作曲家や、委嘱初演に携わった演奏家たちと、私は直接交流してきました。そうした立場にある自分の役割として、楽譜に書かれた音符を身体的に実現するだけではなく、その奥や周辺にある、最も大切なものまで示したいと考えました。これほどの大作を続けて一晩で演奏するグループは、世界的に見てもなかなかないと思います。

パーカッション音楽は、この半世紀の間に数多くの作品が生まれ、発展し、淘汰されてきました。その歩みを一貫して支えてきたのが、演奏技術の進歩です。技術の進歩が作曲家の創作意欲をかき立て、楽器そのものも発展し、私たちの耳も研ぎ澄まされていく。そこには好循環が生まれていると感じます。
そうした要素を一つの公演に集約することを考えたとき、技術の高みと、現在のパーカッション音楽が持つ可能性を示すことのできる、この5作品を選びました。
――公演では「パーカッシブ・アーツのテッペンを一晩で」と掲げています。小森さんにとって、この「テッペン」とは何を意味するのでしょうか。
小森 今回のプログラムは、一つのグループが一晩で演奏する内容として、現代のパーカッション音楽の頂点の一つだと考えています。高い演奏の質が求められるのはもちろんですが、実現すること自体の難しさも特筆すべきものがあります。
作品によっては、演奏に必要な楽器を自分たちで作らなければなりません。現在も新たな楽器の発明や導入が進んでいますが、今回演奏するジェームス・ウッドの作品では、作曲家が示した設計図をもとに、私たち演奏家自身が微分音シロフォンを製作しています。

打楽器の音は減衰が速いため、アタックが少しでもずれれば、そのずれがそのまま露わになります。非常に険しい山道を進むような音楽です。その研ぎ澄まされた感覚を、聴衆の皆さんと共有できるかどうか。特に現代音楽では、常にそこが問われていると思います。マリンバやパーカッション音楽に、これほどの可能性があるのかと感じていただける一夜になるはずです。
――今回、小森さんが世界初演する坂田直樹さんのマリンバ独奏曲「寄木の大樹」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
小森 芥川作曲賞の演奏会で坂田さんの作品を聴き、そのスケールの大きな音楽に感銘を受けて、私から連絡したのが始まりです。コロナ禍によって、当初初演を予定していた公演が中止となりましたが、結果的には作品と向き合う時間を長く持つことができ、試行錯誤を重ねられたことも功を奏したと思います。

坂田さんはマリンバの演奏技術にも強い関心を持ってくださり、作品は非常に難しいものになりました。ただ、その難しさには挑む価値があります。演奏家としての意欲を強く刺激される作品だと感じています。
――リズムは、音楽のなかでも、とりわけ身体に直接働きかける要素の一つだと思います。小森さんは、リズムが人の身体や感情に及ぼす力をどのように捉えていますか。
小森 科学的な裏付けというより、あくまで私自身の感覚ですが、リズムは生命力の象徴だと感じています。例えば人は、気持ちが高揚しているときには速さや躍動感を求め、気持ちが収まると、より落ち着いたテンポを求めます。また、躍動するリズムに触れることで、さらに活力を得ることもあります。
私は教育の場で、音楽におけるリズムの働きを、日常にある物理的な現象に置き換えて説明することがあります。人それぞれ感じ方は異なりますが、リズムを通して、ある共通の景色や感情を共有することができるのではないかと思うからです。
特にアレハンドロ・ヴィニャオの音楽に取り組むなかで、私はリズムによって生じるさまざまな感情を経験しています。複雑なリズムをつかめない困惑、つかんだときの喜び、一度見失ったときの喪失感、そして再び見いだしたときの大きな満足感。さらに、異なるパルスやリズムを俯瞰し、それらが一つに統合された瞬間には、驚きや感動が生まれます。

その意味で、リズムとは、耳や身体で直接感じるものであると同時に、想像の目で「観る」ことのできる景色でもあると思います。坂田直樹さんの「寄木の大樹」も、まさにそのような作品です。異なる音楽的素材が集積し、やがて一つの大きな景色をつくり上げていきます。リズムには、身体感覚へ直接訴える力から、構造を想像しながら味わう喜びまで、幅広い感動を生み出す力があると感じています。
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若い世代の奏者たちとの共演には、技術や経験を継承するという目的もある。作曲家と交流を深め、作品の背景にある考えまで共有する経験は、彼らにとっても大きな財産となるだろう。
小森は今回の公演について、「見慣れない楽器や演奏する姿を見る楽しみ、純粋に耳から音楽を味わう楽しみなど、何通りもの楽しみ方がある」と語る。高度な技術と緻密なアンサンブル、そして未知の音との出会い。打楽器音楽の現在地と、その先に広がる可能性を一夜で体感できるステージとなりそうだ。
文・構成:編集部
【Information】
Time for Percussion 2026 パーカッションの“今”を一晩で
2026.9/15(火)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
坂田直樹:「寄木の大樹」マリンバソロための(2023/2025)
フィリップ・マヌリ:「Le Livre Des Claviers」より 第二楽章 マリンバデュオ(1988)
ジェームス・ウッド:「Village Burial with Fire」 打楽器四重奏のための(1989)
アンディ・アキホ:「Pillar III」 打楽器四重奏のための(2020)
アレハンドロ・ヴィニャオ:「Patterns & Form」 打楽器八重奏とピアノのための(2024)[共同委嘱アジア初演]
出演/小森邦彦、渡邉倖大、森次侑音、岩間美奈、井口有彩、稲垣佑馬、北条拓夢、狩集歩華、中西桃萌、狩野将輝、笛吹章生
問:ミリオンコンサート協会 03-3501-5638 / スティック ヴォックス クラヴィエ info@stickvox.com
https://kunihikokomori.com/tfp2026/

