カンブルラン&読響
ベルリン・フィル首席と描き上げる、音の絵画

左:シルヴァン・カンブルラン ©読売日本交響楽団
右:アミハイ・グロス ©Marco Borggreve

 今年も読響の指揮台にカンブルランが帰ってくる。しかも、この指揮者ならではの、聴き手の感覚を刺激する、知的に構成されたプログラムを携えて。

 後期ロマン派の情感と構造美がギリギリのラインでせめぎ合うウェーベルンの「パッサカリア」で演奏会はスタート。続くのは、韓国の作曲家シン・ドンフンによるヴィオラ協奏曲「糸の太陽たち」だ。昨年ベルリン・フィルが初演、そのときヴィオラ独奏を担当した同フィルの首席奏者アミハイ・グロスを迎えての演奏となる。パウル・ツェランの詩に触発されて書かれたこの協奏曲は、細やかな音の動きが糸のように絡み合って、巨大なエネルギーを導き出す。

 後半はデュティユーの2つの作品が並ぶ。「瞬間の神秘」は、弦楽合奏とツィンバロン、打楽器のための音楽で、デュティユーならではの洗練と繊細を極めたサウンドに耳を奪われる。そして、このフランス人作曲家の代表作「メタボール」。「変容」を意味するタイトルが表すように、一つの音型が色彩豊かに変化していく。

 この演奏会を通してわたしたちが体験するのは、響きが生成され、それが移ろいゆく瞬間そのものだ。ウェーベルン作品における変奏や、シン・ドンフンの多層的な糸の絡み合い、デュティユーの変容といった、時間の経過とともに次々と姿を変えていく形式をもつ作品が並ぶことで、生成と変化がさらに意識される。儚さゆえに生じる美もより強く感じられることだろう。

 「渋そうな現代曲によるプログラム」では決してない。この日、サントリーホールは、瞬間の輝きを耳で感じるテーマパークとなる。

文:鈴木淳史

(ぶらあぼ2026年5月号より)

シルヴァン・カンブルラン(指揮) 読売日本交響楽団 第658回 定期演奏会 
2026.5/20(水)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390 
https://yomikyo.or.jp


鈴木淳史 Atsufumi Suzuki

雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
https://bsky.app/profile/suzukiatsufmi.bsky.social