ストラディヴァリウス・スーパー・プレミアム・コンサートはその名称のとおり、弦楽器の銘器として知られるストラディヴァリウスを用いたアンサンブルによるコンサートである。今回用いられる楽器(ヴァイオリン7、ヴィオラ2、チェロ2)の総額はなんと200億円を超えるという。しかも演奏するのは世界最高峰の名門オーケストラであるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーたち。こんな豪華な演奏会はそうはないだろう。
ストラディヴァリウスとは17世紀後期から18世紀前期にかけて活動したイタリアの弦楽器製作者アントニオ・ストラディヴァリの手で作られた弦楽器で、彼は自作の楽器ラベルに自身の名をラテン語名で記したことで、その楽器もその名で呼ばれることになった。彼が楽器製作を営んだのはイタリア北部の町クレモナだった。ヴァイオリン属は16世紀に誕生し、17世紀にこのクレモナを中心に発展した。ここでは厳しい徒弟制のもとで弦楽器の製作法が追求されたが、その黄金期を作り出したのがアントニオ・ストラディヴァリだったのである。

「グスタフ・マーラー」[1672年製作]
彼は師のニコロ・アマティのもとで身に付けた確かな製作技術を基礎としながらも、師の亜流になることを嫌って彼独自の楽器を追求した。早朝から夕方まで工房に閉じこもり、多数の楽器の製作を通じて、試行錯誤を繰り返しながら自分の理想の楽器の音をとことん求め続けたのである。その製作意欲は90歳を超えた最晩年まで衰えることがなかったと伝えられているが、そうした厳格な職人魂の賜物として、独特の艶やかな音色と伸びのある音、幅広い表現力を持つ数々の銘器が生み出されたのである。
それらはその後の歴史の中で、より広い空間で演奏できるようにするためにネックを取り換えて弦の張力を強くするなど、様々な改造が加えられてきたことはたしかだが(そのため当時の形態そのままのいわゆるピリオド楽器とは区別される)、本来の音と響きは失われることなく、それは今日の製作技術をもってしても凌駕できるものではない。ひとつの楽器に何億円もの値が付くのもそれゆえのことである。

しかしだからといってそれを弾く人の誰もがその楽器の美質を発揮できるわけではない。銘器だからこそ扱いも難しく、優れた奏者でなくてはその良さが引き出せないのだ。今回のコンサートはベルリン・フィルの凄腕の名手たちの演奏なので、ストラディヴァリウスの美質を存分に生かされたものとなることは間違いない。しかも複数の銘器が重なり合うアンサンブルとしてのストラディヴァリウスの響きが聴ける貴重な機会である。個々の奏者の卓越した技術とふだんからオケで鍛え上げられている合奏能力をとおして、いくつものストラディヴァリウスの美麗で表情豊かな音が織り合わされた独特の響きの世界が生み出されることだろう。
プログラムは3つ用意されている。Aプロは冒頭のモーツァルトの有名なディヴェルティメント K.136のほかは、バッハとヴィヴァルディの協奏曲といったバロックもの中心の構成。今日では主流となっているピリオド楽器でのバロック演奏とは違ったストラディヴァリウス特有の美麗な響きを生かした演奏となるだろう。とりわけ後半のヴィヴァルディの「四季」では水もしたたるような瑞々しい演奏が楽しめそうだ。Bプロもモーツァルトのディヴェルティメントで始まるが、あとはバーバーの「アダージョ」、グリーグの「ホルベアの時代より」、チャイコフスキーの「弦楽セレナード」といったやや重量級の名曲プロ。ここではストラディヴァリウスのアンサンブルが奏でる濃やかでロマンティックな厚みのある響きが聴きものとなる。Cプロはバロックから近代までの“ソロ+アンサンブル”という編成による協奏的な小品を並べたバラエティに富んだプログラム。ソリストを受け持つ各メンバーがストラディヴァリウスの魅力をいかに引き出すか注目されたい。いずれのプログラムでも銘器の綾なす麗しい響きが堪能できるだろう。
文:寺西基之
(ぶらあぼ2026年2月号より)
ストラディヴァリウス・スーパー・プレミアム・コンサート 2026
2026.5/29(金)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール【A】
5/30(土)19:00 【B】、5/31(日)14:00 【A】、6/7(日)19:00 【C】 サントリーホール
曲目/
【Aプログラム】
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136/J.S.バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043/ヴィヴァルディ:2つのチェロのための協奏曲 ト短調 RV531、ヴァイオリン協奏曲集「和声と創意の試み」より『四季』op.8
【Bプログラム】
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136/バーバー:弦楽のためのアダージョ op.11/グリーグ:組曲「ホルベアの時代より」op.40/チャイコフスキー:弦楽のためのセレナード ハ長調 op.48
【Cプログラム】
テレマン:ヴィオラ協奏曲 ト長調/ベートーヴェン:ロマンス ヘ長調 op.50/サラサーテ:2つのヴァイオリンのためのナヴァラ op.33/バルトーク:ルーマニア民俗舞曲 他
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
https://www.stradivarius-pcm.com
他公演
2026.5/27(水) 島根県芸術文化センター「グラントワ」(しまね文化振興財団0856-31-1860)【C】
5/28(木) 山口市民会館(山口市文化振興財団083-920-6111)【B】
6/2(火) 愛知県芸術劇場コンサートホール(中京テレビクリエイション052-588-4477)【A】
6/3(水) 宝山ホール(鹿児島文化センター)(KTS鹿児島テレビ099-285-8966)【A】
6/4(木) 横浜みなとみらいホール(神奈川芸術協会045-453-5080)【B】
6/5(金) 東京エレクトロンホール宮城(河北新報社022-211-1332)【A】
6/6(土) あきた芸術劇場 ミルハス(ノースロードミュージック018-833-7100)【A】
※発売日、公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

