ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団

マーラーでさらなる深化を目指す


 ノット&東響の旅路も2シーズン目に入り、両者の歩みは着実に密度を上げている。これまでの成果として、考え抜かれたプログラムと楽曲解釈、仕上げの緻密さと高い完成度、などが挙げられよう。もっともこれらの美質は、就任時点でもある程度予想ができた。むしろ最近の演奏で気になるのは、ノットが予定調和的な仕上げの良さを少々犠牲にしても、時に自ら進んで変化球を投げこんでいる点だ。東響のアンサンブル力は確実にレベル・アップしてきたが、日本人はよくも悪くも巧くまとまってしまいがち。ノットはそのまとまりをあえて少し揺さぶることで、オーケストラからより大きな自発性を引き出し、私たちの予想を超えていこうとしているのではないか。
 そんなわけで両者のコラボ、ますます熱くなりそうなのだが、9月の定期は曲目もマーラーの交響曲第3番ということで目が離せない。彼の巨大なシンフォニーの中でもひときわ大規模な作品で、動植物の世界から人間を経て神の愛へと高まる、天上界への階梯を描いたような作品だ。世界の森羅万象が音で表現されている、と言ってもいい。
 ノットはこの曲をすでにバンベルク響と録音しており、高い評価を得ている。途方もない集中力が必要となるだけに、このタイミングでの得意曲の選曲は、東響との協業をもう一段深化させようという意欲の表れに違いない。独唱の藤村実穂子は言わずと知れた世界屈指のメゾ歌手で、バンベルク響との録音にも大きく貢献している。強力な援軍に加え、東響コーラス、東京少年少女合唱隊も参加。文字通りの総力戦が楽しめそうだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から)

第633回 定期演奏会 9/12(土)18:00 サントリーホール
第52回 川崎定期演奏会 9/13(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
http://tokyosymphony.jp