記念イヤーに光を放つ絶妙なシベリウス・プログラム
シベリウスの音楽には、誇張された表現や華美な音が似合わない独特の空気感がある。現在の日本で、そうした抑制の美学をもって雄弁に語り得る“シベリウス指揮者”の代表格といえば、尾高忠明であろう。それは東京でも聴かせた札響の交響曲シリーズ等で証明されている。
その尾高が、9月の東京シティ・フィル定期でシベリウスを指揮する。これは見どころの多い注目のコンサートだ。まずは、組曲「恋人たち」、ヴァイオリン協奏曲、交響詩「4つの伝説曲」という演目が、生誕150年の今年数多いシベリウス・プログラムの中でも稀少。「恋人たち」は、繊細な弦楽の調べによる切なくも美しい名品で、札響でも取り上げた尾高が、やはり十八番の英国音楽にも似た清澄な感銘を与えてくれる。民俗叙事詩「カレワラ」に基づく「4つの伝説曲」は、有名な「トゥオネラの白鳥」のイングリッシュ・ホルンを軸とした瞑想的な情趣、「レンミンカイネンの帰郷」の弾んだリズムや迫力など、起伏に富んだ聴き応え充分の音楽。尾高は、2010年に札響、14年にN響でも取り上げて絶賛されただけに、自在の名演が期待される。稀代の名曲・ヴァイオリン協奏曲の独奏は、パリを拠点に活躍する韓国の名手、ドン=スク・カン。この共演は尾高の希望によって実現したというから、息の合った演奏が展開されること必至だ。
そして、高関健の常任指揮者就任披露の「わが祖国」で濃密な快演を聴かせるなど、シティ・フィルはいま意気軒昂。手の内に入った尾高と共に奏でるシベリウス傑作集は、記念イヤーにひと際輝く充実の公演となるに違いない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年8月号から)
第291回 定期演奏会
9/12(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
http://www.cityphil.jp