スロヴァキアの鬼才ユライ・ヴァルチュハ&読響が終戦80年に捧げるメタモルフォーゼンとエロイカ

ユライ・ヴァルチュハ ©読響

 2024年から読売日本交響楽団首席客演指揮者を務めるユライ・ヴァルチュハが第二次世界大戦終戦80年となる今年8月の読響マチネーシリーズに登場し、R.シュトラウスの「メタモルフォーゼン」とベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を取り上げる。

 1944年8月に新作の依頼を受け、シュトラウスは「メタモルフォーゼン」の作曲を始めたが、45年2月に彼のオペラを多数初演したゼンパーオーパーが連合軍のドレスデン空襲によって瓦礫の山となり、同年3月にはウィーン国立歌劇場も空爆を受けて破壊された。そんな状況のなかで4月に作品を完成させる。いうまでもなく「メタモルフォーゼン」には破壊された祖国への悲しみが込められている。「23の独奏弦楽器のための習作」という副題が付されているこの作品では、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」第2楽章の葬送行進曲の旋律から派生した主題が奏でられる。

 この日の演奏会の後半は、その「英雄」。第2楽章の葬送行進曲はこれまでも様々な場面で追悼の意味を込めて演奏されてきたが、今回は、シュトラウスの「メタモルフォーゼン」ともども、終戦80年に際し、その犠牲者に捧げられるものとなるであろう。昨年5月の首席客演指揮者就任を記念するマーラーの交響曲第3番で感動的な名演を披露したヴァルチュハ&読響のコンビだけに、今回も心を揺さぶられる演奏が繰り広げられるに違いない。

文:山田治生

(ぶらあぼ2025年8月号より)

ユライ・ヴァルチュハ(指揮) 読売日本交響楽団
第280回 土曜マチネーシリーズ
 2025.8/23(土)
第280回 日曜マチネーシリーズ 8/24(日)
各日14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp


山田治生 Haruo Yamada

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。1987年慶應義塾大学経済学部卒業。雑誌や演奏会のプログラム冊子に寄稿。著書に「トスカニーニ」、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」、「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方 」、編著書に「戦後のオペラ」、「バロック・オペラ」、「オペラガイド」、訳書に「レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー」などがある。