取材・文:林 昌英 写真:編集部
常任指揮者・阪哲朗のもと、好調の続く山形交響楽団。注目公演には全国から山形に聴衆が集まる。その山響の魅力と現状を、コンサートマスター3人に語ってもらった。

中央:ソロ・コンサートマスター 髙橋和貴
右:コンサートマスター 平澤海里
—— 髙橋さんは山響コンマス就任10年になります。
髙橋 変わらず感じ続けているのは、山形の街の景色があって、そこに根付いた人や文化も含めて、土地のカラーがすごくオーケストラにも浸透していること。それを県民が応援して、楽しみに過ごしていらっしゃる。小さい街にもオケがあるヨーロッパのような、ひとつの究極のモデルです。山響の音の透明感はすばらしく、特に弦の音が透き通っているともよく言っていただけます。
—— 髙橋さんの10年は、飯森範親さんから阪さんへ引き継ぐ時期に重なります。
髙橋 阪さんは音楽の流れ、色彩感も含めて、自由に解放された音楽を求める方です。でも、それはアンサンブルの基礎的な緻密さがないと成り立たないわけで、それを飯森さんに叩き込まれました。そうして鍛えられたスキルは大きく、いま新たな形で花が開いたのかなと思います。
—— 犬伏さんと平澤さんは、3年前にインタビューさせていただきましたが、そこからの阪さんとの関係性など、変化や何か感じていることは?
犬伏 阪さんが求めているのは、いかにオケが自発的にできるかということ。自由に何かをする余地を残してくださるマエストロなので、ここはこうしたいというアイディアを各自が自主的に出しやすくなっています。リハーサルでも、怖がらずにとりあえず思っていることを出してほしい、と何度もおっしゃっています。オペラなどをやることでオケのレパートリーが広がり、音の出し方の選択肢が増えていることも大きいです。
平澤 阪さんは山響のいいところを出していこうと、音楽の中でアプローチしてくる方です。特に最近はオペラの機会も増えて、いい関係性が培われているのを感じます。阪さんが求めてくるものを奏者たちも感じられてきて、表現での反応の出方が3年前と違ってきています。特にモーツァルトみたいな古典的な作品を演奏する時に、分かりやすく出ている気がします。
—— 今後の山響の目標やプロセスのイメージは?
平澤 阪さんは山響にいろんな引き出しを作ろうといつでも考えていて、僕らもそれを楽しみにしている。奏者に考える余地を与えているというお話がありましたが、そこがこれからの未来に大事なものになると思います。
犬伏 少しずつ自発的に柔軟にできているのを感じられます。この先も阪さんはじめ様々な指揮者の方と、いろいろなジャンルのものに取り組む中で、よりその幅を広げて、オケとしての可能性を増やしていきたいですね。
髙橋 優秀な若い人たちが入ってきて、伝統と変化がいい形で融合している手応えを感じています。さらに新しい世界が見えてくる過渡期にあるし、時間をかけて音楽だけに打ち込める環境だと思うんですね、山形という街が。山響はやっぱり山形で聴きたい、と日本各地から来てくださる方が増えていくことが、僕たちの音楽をやり続ける目標でもあります。
3人には「今シーズンの楽しみな公演」も挙げてもらったが、「交流が多く切磋琢磨していきたい隣の県のオケ」である仙台フィルとの9月の合同演奏会や、阪との9月のシューベルト「ザ・グレート」や来年1月《蝶々夫人》演奏会形式上演などが出た後、全ての公演に言及があって、結局「どれも楽しみで選べません!(笑)」ということに。コンサートマスターたちが一つひとつの公演をしっかり捉えているのは特筆されるべきことだ。
なお、このインタビュー中には、山響の理念を築き上げ、山響の優れたシベリウス演奏の土台を作った創立名誉指揮者・村川千秋への感謝が幾度も語られていた。
その村川が、インタビュー翌週の6月25日に92歳で亡くなった。筆者も以前直接お話を伺う機会があったが、地元に根差す活動への思いを繰り返し強調し、その衰えぬ熱量に圧倒された。山形を愛した村川の理念が、現在も楽員に浸透していることは、今回の3人の言葉からも伝わってきた。今後の山響の進み方はますます注目となる。
(ぶらあぼ2025年8月号より)
第326回定期演奏会
2025.8/2(土)19:00、8/3(日)15:00 山形テルサホール
出演
指揮:沼尻竜典 ヴァイオリン:堀米ゆず子
曲目
バルトーク:舞踊組曲 BB86a
サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲 第3番
シューマン:交響曲 第3番「ライン」
第327回定期演奏会
2025.9/6(土)19:00、9/7(日)15:00 山形テルサホール
出演
指揮:阪 哲朗 ピアノ:小林愛実
曲目
小田実結子:山響委嘱新作〈世界初演〉
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
シューベルト:交響曲 第8番 「ザ・グレート」D944
問:山響チケットサービス023-616-6607
https://www.yamakyo.or.jp

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。



