サントリーホール ARKクラシックス

都心の街角が音楽で満たされる贅沢な5日間

ARK PHILHARMONIC ©N.Ikegami

文:林 昌英

 夏が終わると「サントリーホール ARKクラシックス」の季節がやってくる。アークヒルズ界隈で開催される音楽祭「ARK Hills Music Week」のメインイベントが「ARKクラシックス」で、毎年秋の風物詩となっている。
 アーティスティック・リーダーとして「ARKクラシックス」の顔となっているのが、ピアニスト辻井伸行とヴァイオリニスト三浦文彰。世界で活躍する彼らを中心に、内外トップクラスの音楽家たちが集い、今年は9月27日から10月1日までの5日間、全11公演が行われる。ソロ、アンサンブルからフルオーケストラまで、多彩な公演の聴きどころをご紹介。

改称して新たな門出を飾るARKフィル

 三浦文彰指揮のオーケストラ公演は、ARKで最も独自の公演といえるかもしれない。ヴァイオリニストとして他公演でもソロを担当しながら、指揮者としても2公演に出演する三浦。ARKでの指揮はもう5年だが、弾き振りはもちろんのこと、指揮に専念したときの演奏の見事さは特筆しておきたい。楽員の自主性と表現意欲を引き出しつつ、バランスも音楽の流れも的確にコントロール、演奏には熱気と瑞々しさがあふれるのである。

三浦文彰 ©Yuji Hori

 今年からオーケストラ名が変わることも注目。前回までは室内オーケストラ「ARKシンフォニエッタ」だったが、編成を拡大して名称を「ARK PHILHARMONIC」(ARKフィル)に変更。贅沢なメンバーがそろうことは変わらず、これまで以上に常設楽団と遜色ない水準の演奏を展開してくれるはず。

清水和音 ©Yuji Hori

 大ホールでの2公演は意欲的な内容。9月28日夕方「ARK PHILHARMONIC 1」は、辻井とのモーツァルトのピアノ協奏曲第21番ハ長調と、清水和音とのベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調。辻井の美音で楽しむモーツァルト、巨匠の清水のストイックながら豊潤なベートーヴェンに期待がつのる。メインはベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調「運命」。指揮者にとって究極的な作品のひとつで、三浦がどのような指揮で熱く構築するのか。ハ調で構成された堂々たる古典プロにも意気込みが感じられる。

左:高木綾子 ©FUMI
右:吉野直子 ©Akira Muto

 9月29日夕方「ARK PHILHARMONIC 2」は華麗かつ重厚な演目。まずモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲ハ長調を日本の代表的名匠、高木綾子と吉野直子の典雅なソロで。そしてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を辻井のテクニックで熱く楽しむ。メインはブラームスの交響曲第1番ハ短調。これまでもブラームスの快演を聴かせてきた三浦だけに、今回もイメージを刷新するような「ブラ1」が実現するはず。この公演も2曲はハ調の楽曲で、2公演を通した三浦のメッセージもありそうだ。

辻井のピアノで聴くリストとショパン

辻井伸行 ©Yuji Hori

 9月28日と29日の昼には「辻井伸行スペシャル」と題された2公演が開催される。28日は「フランツ・リストの魅力」。辻井のリストを集中的に聴ける機会は意外に貴重で、「愛の夢第3番」「ため息」「コンソレーション第2番・第3番」といった名品から、「リゴレット・パラフレーズ」「ヴェネツィアとナポリ」などヴィルトゥオーゾ作品まで、リストの世界を堪能する。29日は「フレデリック・ショパンの魅力」で、「子守歌」「幻想即興曲」「スケルツォ第2番」「バラード第1番」など、得意のショパン名曲の数々を味わい尽くす。

ブルーローズの多彩なアンサンブル

 ブルーローズでの名手たちによるアンサンブル公演も多数。そのうち1時間前後の4公演は、それぞれにテーマが設定される。9月28日昼は「ARK JAZZ」。話題の若き天才トランぺッター松井秀太郎が、自らのカルテットでジャズの世界をたっぷりと披露する。同日夜はARKのレジデント「ARK BRASS」公演。国内のスター奏者たちがコアとなり、金管楽器の魅力を伝え続ける人気グループで、今回は世界的トランペット奏者セルゲイ・ナカリャコフがスペシャル・ゲスト。金管ファン必聴。

左より:松井秀太郎 ©Tadayuki Minamoto/ARK BRASS ©Yuji Hori/セルゲイ・ナカリャコフ ©Thierry Cohen

 9月29日昼は「ARK VOICES」と題して、ジャンルの境をこえて活躍する女声コーラスグループ「リトルキャロル」が登場。讃美歌から現代、ディズニーソングまで、異次元の響きに浸るアカペラコンサートを。9月30日昼の「ランチタイム・コンサート」は、辻井がナカリャコフや三浦らと共演。

 2時間強の3公演も充実しており、多彩な編成のアンサンブルが目白押し。9月27日「オープニング・ナイト」と10月1日「クロージング・ナイト」は、ARK出演のアーティストたちが集い、ガラコンサートのように名品の数々を奏でる。中心となるのはデュオ作品だが、10月1日には高木、鈴木康浩、吉野によるドビュッシーの「フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ」、三浦と辻井によるラヴェルのヴァイオリン・ソナタ ト長調、三浦がリーダーとなるメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲などの本格的な作品群も注目。9月30日夜は「ARK QUARTET」と題して、四重奏3曲にシューベルト「ます」という、室内楽ならではの硬派かつ贅沢なプログラムも堪能できる。

サントリーホール ARKクラシックス
2024.9/27(金)〜10/1(火) サントリーホール
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
  チケットスペース03-3234-9999
https://avex.jp/classics/arkclassics2024/
※販売状況により完売の場合あり。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。