震災、コロナ、、幾多の困難を乗り越えて。
文:飯尾洋一
フェスタサマーミューザ KAWASAKIは今年で20回目の開催を迎える。初開催は2005年。この間、震災やコロナ禍もあったが、この音楽祭は逆風をはねのけながら一度も休止することなく続いている。これまでの歩みを振り返ってみよう。
日本最大級のオーケストラの祭典が産声をあげる
初開催は2005年。ミューザ川崎シンフォニーホール誕生の翌年にあたる。「創意とチャレンジ」を合言葉に、首都圏のオーケストラが競演する音楽祭というアイディアが誕生した。先頭に立って音楽祭を引っ張った阿部孝夫市長(当時)は、音楽祭を「参加オーケストラとホールの協働によるチャレンジ」と位置づけ、「クラシック音楽の新しい聴き方・楽しみ方を提唱し、わが国のクラシック界の長年の課題であったファンの開拓をめざす新しいタイプの音楽祭」を目指すと語った。多様なタイプの聴衆を獲得するために、休憩のない短時間のコンサートも多数用意され、開演時間も公演によって平日の昼や夜遅めに設定されるなど、音楽祭の独自色は初回から打ち出されていた。公開リハーサルやプレトークなど、聴衆との垣根を取り払うためのアイディアも盛り込まれた。
2007年には「こどもフェスタ」が誕生する。オーケストラのコンサートはどうしても大人中心の楽しみになりがちだが、子ども向けのラインナップができたことで、フェスタサマーミューザ KAWASAKIは夏休みの家族連れにも足を運びやすい音楽祭になった。また、音楽工房での「楽器体験コーナー」や市民交流室での「0歳児からのミニコンサート」も用意された。それまでもファミリー向けの企画がなかったわけではないが、新たに「こどもフェスタ」と銘打って企画を拡充したことで、音楽祭が地域に対してぐっと開かれたものになったことはまちがいない。
2009年、音楽祭に欠かせない名曲が誕生する。三澤慶の「音楽のまちのファンファーレ~フェスタサマーミューザ KAWASAKIによせて」がホール開館5周年を記念して作曲され、音楽祭の開幕にあたって、ユベール・スダーン指揮の東京交響楽団メンバーによって演奏された。以来、このファンファーレは音楽祭の開幕を飾る曲としてすっかり定着している。昨年はTシャツ姿のジョナサン・ノットがこのファンファーレを指揮してくれたが、川崎発のファンファーレがスダーンやノットといった世界的指揮者によって毎年演奏されているのは痛快なことではないだろうか。
決して音楽の灯を消さない
2011年は忘れることのできない震災の年である。震度5強の揺れによりミューザ川崎シンフォニーホールの天井仕上げ材が客席に落下した。その被害の様子をとらえた写真を目にした方も多いと思う。負傷者は出なかったものの、原因調査と復旧工事のためにホールは2年間もの休館を余儀なくされる。音楽祭の開催は困難と思われたが、当時の阿部市長は「今こそやるべきじゃないか。学校の体育館でもできるじゃないか」と現場を叱咤したという。その結果、極めて短い準備期間を経て、テアトロ・ジーリオ・ショウワを中心に、サンピアンかわさきやエポックなかはらなど、川崎市内の各地のホールで代替公演が開かれ、例年と遜色ないラインナップが実現した。テアトロ・ジーリオ・ショウワは以後も使用され、「出張サマーミューザ@しんゆり!」として定着することになる。
2013年、2年間の休館を経て、ミューザ川崎シンフォニーホールがリニューアルオープンする。ファン待望の復活である。東京交響楽団によるオープニングコンサートを指揮した当時の同楽団音楽監督ユベール・スダーンも記者発表会に登場して、ふたたびミューザ川崎シンフォニーホールで音楽祭を開催できることへの喜びと感謝を述べた。
2019年の大きな話題は、仙台フィルハーモニー管弦楽団の参加だ。首都圏のオーケストラの競演であるこの音楽祭に杜の都のオーケストラがやってきて、新風を吹き込んでくれた。以降も20年に群馬交響楽団、21年にオーケストラ・アンサンブル金沢、京都市交響楽団、22年に大阪フィルハーモニー交響楽団、23年に山形交響楽団、大阪の日本センチュリー交響楽団が招かれ、各地の個性豊かなオーケストラを聴くという新しい楽しみが音楽祭に加わった。
新風を巻き起こした生音&生配信
2020年にはコロナ禍が猛威を振るい、音楽界には公演自粛の動きが相次いだ。先の読めない状況が続き、難しい判断を迫られる場面であったが、福田紀彦市長の「川崎から始まる新たな様式でのチャレンジに注目してほしい」との掛け声のもと、客席数を限定した生演奏と有料ライブ配信のハイブリッド型での開催が実現した。この年のオープニングコンサートでは、入国制限で来日できないジョナサン・ノットが、事前に指揮姿を映像収録し、本番で映像を再生しながら東京交響楽団が演奏。コンサートがストップしてから約5ヵ月、待望のオーケストラ公演だった。ライブ配信は、コロナ禍の副産物として聴衆の間に大きな広がりを見せることになった。
そして今年、第20回の節目の年を迎えたフェスタサマーミューザ KAWASAKI。これからも川崎に欠かすことのできない音楽祭として、人々に深く豊かな音楽の喜びを届けてほしいと願わずにはいられない。
【Information】
フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2024
2024.7/27(土)~8/12(月・休) ミューザ川崎シンフォニーホール、昭和音楽大学 テアトロ・ジーリオ・ショウワ
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。
特集:フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2024
今年で20回目の開催となる日本最大級のオーケストラの祭典「フェスタサマーミューザ KAWASAKI」。ホスト・オーケストラの東京交響楽団をはじめとする首都圏の9団体に、初登場の佐渡裕&兵庫芸術文化センター管弦楽団、9年ぶりの吹奏楽企画となる「浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァル ワールドドリーム・ウインドオーケストラ」を加えた全11団体が日替わりで登場。「夏音(サマーミューザ)!ブラボー20周年」を合言葉に熱き競演を繰り広げる。その他、小曽根真が次世代のミュージシャンたちと一夜限りのセッションを披露する「サマーナイト・ジャズ」、ライプツィヒ聖トーマス教会のオルガニスト、ヨハネス・ラングによる「真夏のバッハ」、ホールアドバイザー小川典子のライフワーク「イッツ・ア・ピアノワールド」と恒例企画も充実の内容。アニバーサリーにふさわしい珠玉の19公演。ぜひ会場で聴き比べたい。