エフゲニー・キーシン記者会見

 1986年に初来日したエフゲニー・キーシンは今年で日本デビュー25周年、10月10日には40歳の誕生日を迎える。この記念の年に招聘元のジャパン・アーツはサントリーホールを会場として3日間にわたる「キーシン・フェスティバル」東京公演を開催。内容は〈バースデー・スペシャルコンサート/アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)とのデュオ 他〉(10/10)、〈リサイタル〉(10/23)、ウラディーミル・アシュケナージ指揮シドニー交響楽団との〈協奏曲〉(11/13)というものだ。このフェスティバルに先立ち10月3日に東京の帝国ホテルで記者会見が行われた。
 まず、日本では22年ぶりとなるピアノ協奏曲の演奏について。なぜグリーグを選んだのか。
 「このシーズンにグリーグを弾いてみたいと思っただけで、特に大きな理由はないのです。半年前くらいからグリーグを改めて練習し、ヨーロッパで弾いています。ロシアではグリーグの評価は高いのですが、 他の国々ではそうではなくて驚いています。自分のレパートリーの中では重要な位置にある作品ですので、今後もこの作品は弾いていきたいですね。今年のベルリン・フィルとの共演でもこのグリーグのピアノ協奏曲を演奏する予定です」
 25年間を振り返り、思うこと。
「幸運な25年だったと感じています。神様に感謝するしかないですね。日本に招いてくれたジャパン・アーツのような質の高い会社とのめぐり会いもそうですが、自分の両親と先生に恵まれたこともとても幸運でした。神童と呼ばれる人は何人もいましたが、皆さん全員が大成したわけではない。親や関係者たちが、早いうちから学校にも行かせず無理な演奏活動を強いるなど、開花する前に才能をつみとってしまうのです。私の両親はそうではありませんでした。学業に支障をきたさぬよう、演奏活動を制限してくれました。子供を使ってひと稼ぎしようとは思わなかったそうです。まわりの人が私の才能に感嘆する声を聞いても鵜呑みにせず、冷静に私の成長をみていたようです。先生と両親は私が人間としてバランスよく成長するよう心かげてくれていたのですね」
 リサイタルはオール・リストプログラム。超絶技巧練習曲集から「回想」、巡礼の年第1年より「オーベルマンの谷」、巡礼の年第2年より「ヴェネツィアとナポリ」、そしてピアノ・ソナタロ短調などを取り上げる。選曲とリストの魅力については、という質問には「音楽を言葉で表現するのは難しい行為で、博学な音楽学者のような人がすること」と前置きしながらもコメントしてくれた。リストの表現性豊かな作品を選んだとのこと。
 「『ヴェネツィアとナポリ』のなかの“ゴンドラを漕ぐ女”の元になっている歌の歌詞を教えてもらいました。もともとは、『ゴンドラに乗ったブロンド娘』という恋の歌で、エロティックな面もある歌詞です。“カンツォーネ”はロッシーニの歌劇《オテロ》の一節からとった作品。ロ短調ソナタは言葉で表現するのは難しいし、その必要もない。具体的な表題が無いので、初めて聴く人にはしんどいかもしれませんが、事前にほかの人の録音などを聴いて予習してから私の演奏を聴いてもらえばご満足いただけると思います。今年はリストの生誕200年ということで、ヨーロッパ、アメリカ、韓国でもリストの作品を弾くことになっています」
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 HP
※この記者会見の模様は「ぶらあぼ」のホームページに て動画で配信中です。