日本に舞い降りる“天使たち”
今年もウィーン少年合唱団がやってくる。世界中で愛される「天使の歌声」は1955年に初来日。以来、ほぼ毎年来日しているから、親子三代にわたって毎年コンサートに通い続けている熱心な日本のファンもいるのでは。
前身の「宮廷少年聖歌隊」が第一次世界大戦後のオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊とともに解散し、1924年に「ウィーン少年合唱団」として生まれ変わってから100年目の節目。おなじみのセーラー服のユニフォームもこの時に採用されたものだという。しかし彼らにとって100年前などというのは比較的最近の出来事で、その歴史は500年以上前までさかのぼる。
〈インスブルックよ、さようなら〉で知られるフランドル楽派のハインリヒ・イザークも仕えていた、ハプスブルク家の神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世が、1498年6月に礼拝のための少年歌手6人を雇用したのが歴史の始まり。イタリアではレオナルド・ダ・ヴィンチが活躍した盛期ルネサンスの時代だ。その時代から日々の訓練と演奏を脈々と続けてきた蓄積は当然ながら重要で、いわばウィーン宮廷の500年の歴史が、彼らの伝統の中にタイムカプセルのように保存されているのだ。たとえば18〜19世紀のモーツァルトやベートーヴェンの時代に、ウィーンの教会でミサのラテン語がどのような発音で歌われていたのかを知るのに、彼らの歌唱は大いに参考になるはず。可愛らしいアイドル合唱団とだけ思っていたら、彼らの真価を見誤りかねない。
10歳から14歳まで約100人の少年合唱歌手たちがブルックナー組、ハイドン組、モーツァルト組、シューベルト組の4グループに分かれて活動しており、今年来日するのはシューベルト組。指揮は同組のカペルマイスターのオリヴァー・シュテッヒ。
「夢みる夜と魔法の世界」と銘打ったAプロは、夜そしてファンタジーの世界(5/3, 6/7, 6/14, 6/15)。〈人生のメリーゴーランド〉(ハウルの動く城)や〈君をのせて〉(天空の城ラピュタ)、〈星に願いを〉(ピノキオ)、さらには〈エーデルワイス〉〈ひとりぼっちの羊飼い〉(サウンド・オブ・ミュージック)など映画・ミュージカルの人気ナンバーもたっぷり。Bプロの「ウィーン少年合唱団と巡る四季」は「秋」「冬」「春」「夏」の4部構成で古今東西の季節の歌を次々に(5/4, 6/12, 6/16)。米津玄師〈パプリカ〉は聴きもの。Aプロでプーランク、Bプロでドビュッシーと、フランス音楽を歌うのも注目。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2024年5月号より)
2024.5/3(金・祝)、5/4(土・祝)各日14:00 サントリーホール
6/7(金)、6/12(水)、6/14(金)各日13:30
6/15(土)、6/16(日)各日14:00
東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp/special/wsk/
※プログラムは公演により異なります。全国ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。