全ては刺激的な“新世界”へと向う
カンブルラン&読響は、いま成熟の域に入っている。昨年12月のメシアン「トゥーランガリラ交響曲」は、それを確信させる名演だった。美しくも密度の濃い響きで、音の綾を精妙に描いたこの演奏は、作品のクラシカルな美感を炙り出し、両者の充実ぶりを如実に知らしめた。彼らは来る3月、同じプログラム(前半は酒井健治の新作)を携えて、12年ぶりの欧州公演に挑む。実にチャレンジングだが、2月に披露されるもう1つのツアー・プログラムも、それに劣らぬほど意欲的だ。
ひと言で言えば“新世界”プログラム。メインのドヴォルザーク「新世界より」は、作曲者が新天地アメリカから故郷へ宛てた“音楽レター”であり、言うまでもなく日本人の琴線を刺激してきた超名曲である。だが、いかなる曲をも耳新たな音楽としてしまうカンブルランだけに、想像を超えた「新世界」出現の予感が漂う。一方の目玉、バルトークのヴィオラ協奏曲も、母国ハンガリーからアメリカに移った作曲者が、馴染めぬ生活の最期に遺した名品。こちらはソロを弾くニルス・メンケマイヤーが大注目だ。1978年ドイツ生まれの彼は、巨匠バシュメットも一目置く新世代の実力派。先頃ソニーからリリースされたCDも雄弁かつナチュラルな妙演ゆえに、ヴィオラの協奏曲の最高傑作を弾く今回は、ぜひ耳にしたい。さらには武満徹「鳥は星形の庭に降りる」とアイヴズ「答えのない質問」も華を添える。共に20世紀音楽に新世界を切り開いた作曲家&作品。これはもう全てが示唆に富んでいる。
この刺激的なプログラムを、欧州旅行を前にした覇気漲るコンビで聴くことは、間違いなくエキサイティングな体験となる。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年2月号から)
第545回 定期演奏会 2/13(金)19:00 サントリーホール
第174回 東京芸術劇場マチネーシリーズ
2/15(日)14:00 東京芸術劇場コンサートホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
http://yomikyo.or.jp