パーカッションとのアンサンブルで感じた新たな気づきと音楽性
2006年のデビュー録音以来、筆者が何度も取材を続けてきたチェリストの新倉瞳。当時は自分の方向性がまだ明確に見えず、スター扱いされることにとまどいの表情を見せていたが、その後スイスに留学し、人間的にも音楽的にも大きな変貌を遂げた。現在はカメラータ・チューリッヒのソロ首席、ソロ、室内楽と国内外で幅広く活躍。3月27日にはHakuju Hallのリクライニング・コンサートでパーカッショニスト渡辺庸介とのデュオを披露する。
「渡辺さんのライブを何度か聴き、自由で多様性を秘めたパーカッションに魅せられ、一緒に何かできないかなと思ったのがきっかけです。今回はバッハの無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュード、サラバンド、ジーグを演奏しますが、私はふだん通り演奏し、そこに彼が数種の楽器を駆使して自在に入ってくるスタイル。プレリュードは即興的で、チェロに背景の色を足していく感じ。さざ波のようでもあり、鳥の鳴き声のようでもある。サラバンドは遠くの村の踊りが聴こえてくるような不思議な感覚に陥るのですが、こうした風景は味わったことがなく、バッハの新たな世界に触れた感じがします。これは実際に聴いていただかないとわからないので、ぜひバッハを聴き慣れた人も、初めて聴く人にも耳にしてほしいですね。ジーグは踊りのリズムが際立ち、パーカッションとのデュオの醍醐味です」
近年、新倉は東欧系ユダヤ人のクレズマー音楽に親しみ、渡辺も北欧音楽など幅広い曲を演奏するため、選曲はふたりの視野の広さが堪能できるものとなっている。
「私はバロックチェロを演奏することで音楽の幅がぐんと広がりました。いまはカザフスタンのドンブラという楽器に魅了されています。渡辺さんも家に眠っていたハンマーダルシマーを出してきて再び演奏しはじめました。今回はそれらの楽器も登場する予定です。それからクレズマー伝承曲『ニグン』では、歌もうたいたいなと思っています」
彼女はスイスで暮らし始め、「素の自分に戻れる感じがした」という。現在はスイスと日本を往復して多忙を極めるが、表情は明るい。
「私は弱音の美しさで勝負する音楽が好きなんです。小さな音にこそエネルギーが詰まっている感じがする。声高に大きな音で表現するのではなく、内側に秘めた力で説得力のある演奏をしたい。渡辺さんならではの間合いやグルーヴ感を享受し、ふたりで魂の叫びのような音楽を描き出したいです!」
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2024年2月号より)
第171回 リクライニング・コンサート
新倉 瞳(チェロ) & 渡辺庸介(パーカッション)
2024.3/27(水)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp