ミコラ・ジャジューラ(指揮) ウクライナ国立フィルハーモニー交響楽団

魂を込めて紡ぐ二つの“第9番”

 日本の年末の風物詩、ベートーヴェンの「第九」。師走に入ると国内オーケストラが奏でる歓喜の歌が各地で響き渡るが、12月22日の東京芸術劇場では、「スラブ最高」と称される海外オケの演奏でこの曲を聴くことができる。ミコラ・ジャジューラ率いるウクライナ国立フィルハーモニー交響楽団だ。

ウクライナ国立フィルハーモニー交響楽団

 ジャジューラはキーウに生まれ、東京国際(1987年)やブダペスト国際(88年)などの著名な指揮コンクールにおいて受賞を重ね、96年に創設間もないウクライナ国立フィルの音楽監督に就任した。名実ともに同国を代表する指揮者だ。ウクライナ国立フィルは1995年にキーウを本拠地として創設。現代音楽の大家・ペンデレツキを指揮台に招いたり、パヴァロッティやクレーメルなどの大演奏家と共演を重ねながら、欧州を中心に海外ツアーも積極的に行っている。

 ウクライナ侵攻以降は困難な状況が続いており、楽団員の中には軍に志願した人もいるという。昨年9月よりキーウでの定期演奏会が再開され、リハーサルや公演が空襲警報で中断することがあっても、会場は連日の満席。先頭に立って市民に音楽を届け続けたジャジューラは、今年を振り返り次のように語る。

「私たち全員にとって挑戦の一年、そして回復の一年だったと思います。音楽には人々を団結させ、気持ちをも高揚させる力があります。この困難な時代だからこそ、音楽という普遍的な言語を通じて団結することが、これまで以上に重要だと確信しています」

ミコラ・ジャジューラ ©三浦興一

 「第九」の声楽ソロは、いずれもウクライナ国立歌劇場のソリストが務める。この作品とともに取り上げられるのは、ドヴォルザークの言わずと知れた名曲、「新世界より」。贅沢なカップリングだ。東欧を代表する作曲家が新天地で創り上げた“第9番”と、人類の連帯を謳ったテクストに基づいた楽聖の“第9番”。苦境の中でも希望を失わない音楽家たちの不屈の想いが、聴き親しんだ演奏とは一味違う姿を浮かび上がらせることだろう。

ベートーヴェン「第九」のソリスト
左より:テチアナ・ガニーナ(ソプラノ)、アンジェリーナ・シュヴァツカ (アルト)、ドミトロ・クズミン(テノール)、セルギィ・マゲラ(バス)

文:編集部


【Information】
ウクライナ国立フィルハーモニー交響楽団
2023.12/22(金)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール

出演/
指揮:ミコラ・ジャジューラ
ソプラノ:テチアナ・ガニーナ
アルト:アンジェリーナ・シュヴァツカ
テノール:ドミトロ・クズミン
バス:セルギィ・マゲラ

曲目/
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調「新世界より」op.95
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調「合唱付き」op.125

問:テンポプリモ 03-3524-1221
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