ユベール・スダーン(指揮) 東京交響楽団

還ってきた名匠がもたらす新たな光彩

ユベール・スダーン

 東京交響楽団の桂冠指揮者ユベール・スダーンが、2年ぶりに定期に登場する! スダーンといえば、2004年から14年まで東響の音楽監督を務め、精緻な彫琢による緊密な演奏で一世を風靡した名匠。勇退後も随時帰還し、佳き刺激を与えている。最近では23年10月、「モーツァルト・マチネ」を5年ぶりに指揮。これを聴いた時、「あのスダーンのサウンドと音楽が還ってきた!」と即座に感じた。そして公演が進むにつれてスダーンのDNAは現音楽監督ノットがもたらした生気や精彩と絶妙に融合し、他では味わえない音楽となって耳を潤した。

 彼が振る12月定期のプログラムは、シューマンの交響曲第1番「春」(マーラー版)とブラームス(シェーンベルク編)のピアノ四重奏曲第1番。クラシカルな音楽に近代の大家が味付けした作品が並ぶ、興味津々の内容だ。マーラー版のシューマンは、スダーンが音楽監督時代に取り上げて、絶大な成果をあげた演目。明快かつ豊潤で馥郁たるその名演は、CDにも残されている。「マーラーはシューマン読みの天才」と語るスダーンが、今いかなるアプローチを見せるか? それがまずは楽しみだ。さらにはブラームスのロマンティックな室内楽曲を、シェーンベルクが斬新な管弦楽法で再生した快作。ブラームスの旋律美とシェーンベルクの色彩美を併せ持つ本作は、生で聴くと滅法面白い。こちらは、ノットが後期ロマン派や近代の作品で駆動力や立体感を付与した現在の東響におけるパフォーマンスが特に注目される。

 これは回帰の喜びと新たな期待感が交錯する、聴き逃せない公演だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年12月号より)

第717回 定期演奏会 
2023.12/16(土)18:00 サントリーホール
川崎定期演奏会 第94回 
12/17(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
https://tokyosymphony.jp