ゲルハルト・オピッツ ピアノ・リサイタル
シューベルトとリスト 詩的なものへの憧憬とその軌跡

ドイツ・ピアニズムの継承者が繊細に描き出す人心の機微

(c)Concerto Winderstein

 近年ますます円熟味を増している、ゲルハルト・オピッツの音楽。1953年バイエルン州生まれ、ドイツの正統的なピアニズムをいまに伝える稀有な存在であり、19歳で師事したヴィルヘルム・ケンプから自らを後継する者に認められたというエピソードでも知られる。

 今年のリサイタルで取り上げるのは、まずオピッツが得意とするシューベルトから、未完の作品であるピアノ・ソナタ第15番「レリーク」。今回彼は「第1、2楽章が圧倒的に美しく完成されている」ことから、補筆をせず演奏するとのこと。さらに、リストがたびたび演奏したといわれるシューベルトの名作「さすらい人幻想曲」を取り上げ、続くリストによる詩情に満ちた一連の作品につなげる。

 ギリシャ神話に関連するバラード第2番と、「巡礼の年第2年『イタリア』」より「ペトラルカの3つのソネット」では、シューベルトとはまた一味違ったロマンあふれる詩の世界を再現してくれるだろう。そして楽しみなのは、演奏される機会の多くない「バッハのカンタータ『泣き、嘆き、悲しみ、慄き』の主題による変奏曲」。世界がさまざまな出来事に大きく揺れる今、オピッツの風格ある重厚な音による演奏が、束の間の慰めを与えてくれるかもしれない。

 今年の出来事に思いを馳せ、明るい未来を祈りたい年の瀬によく合う、魅力的なプログラム。自然さと説得力にあふれた音楽を届けてくれるベテランピアニストの手で、じっくりと聴きたい。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2023年12月号より)

2023.12/15(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 
http://www.pacific-concert.co.jp