ウクライナ国立バレエ(旧称キエフ・バレエ)が8月4日、夏のガラ公演で来日中のダンサー、寺田宜弘・バレエ芸術監督の出席のもと、今冬の来日ツアーについて会見を行った。
バレエ公演は、12月23日から24年1月14日にかけて、全国9都市17公演を実施。演目は、現地で冬の風物詩として人気のオリジナル全幕作品『雪の女王』(日本初演)、昨年の来日公演で好評を博した『ドン・キホーテ』、そして、日本からの義援金(約1700万円)の一部で制作された舞台装置がお披露目される『ジゼル』の3作品。ウクライナ国立歌劇場管弦楽団も来日し、バレエ公演の演奏のほか、オーケストラ公演も5公演が予定されており、キーウからは約130名が来日するという。
戦禍が続くなかで、昨年12月に芸術監督に就任した寺田はこの8ヵ月を振り返って次のように語った。
「侵攻当初20名程になってしまった団員が、この9月には125名と少しずつ増えています。残ってくれた団員は10代、20代と非常に若い。自国の芸術を今まで以上に素晴らしものにしていきたいと愛国心の強い彼らと一緒に仕事ができることは非常に幸せです。ウクライナの芸術を次の世代に繋げてくれると思っています」
「戦争のなか、一度も大変だと思ったことはありません。芸術監督の私が苦しいと思うとすべての団員たちに夢を与えることができなくなってしまう。劇場、団員、その家族を守っていかなければならないのです」
またこの間、ウクライナの芸術を愛する人々や義援金の力で、世界的振付家(ハンブルク・バレエ団のジョン・ノイマイヤー、オランダ国立バレエのハンス・ファン・マーネン)による2つの新作が生まれた。
「日本、オランダ、ドイツ、ウクライナの4国が一つになって、新しいウクライナの素晴らしい時代を迎えることができるよう環境を創ってもらいました。またその後、ジョージアにて行われた世界バレエ・フェスティバルへの参加や、25名の団員をハンブルク・バレエ団50周年記念ガラ公演に招待していただき、パリ・オペラ座バレエ、ロイヤル・バレエ、ハンブルク・バレエと一つになれたことは、ウクライナの芸術家にとって歴史に残る一日でした」
この冬の日本公演も様々な困難が伴うことが予想される。今回の夏のガラ公演開催にあたっても、団員はキーウ発着の飛行機がないため、35時間以上かけて来日している。さらに政府からの召集令状が発令されており、夏のツアーに参加できなかったダンサーもいた。出演者の安全の確保、ビザの取得、舞台セットなどの輸送、物価高騰などの様々な問題が重なるなかでの来日公演となる。
登壇したダンサーたちもみな故国の家族を心配しつつも、今の心境をそれぞれ次のように語った。
来日回数も多いプリンシパルのニキータ・スハルコフは、冬公演で3演目すべてで主演する。
「空襲警報が毎日鳴り響いていますが、劇場は通常通り動いており、毎週数回の公演をこなしています。私たちの最も重要な使命はウクライナの文化、バレエを守ることです。侵攻から1年半、悲しいことも多いですが楽しいこともたくさんありました。この期間に3度も来日できたことが一番印象にのこっています」
『雪の女王』雪の女王役、『ジゼル』ミルタ役で出演するプリンシパルのアナスタシア・シェフチェンコ。
「私たちが安全な日本にいても、家族や親族はウクライナに残っていて、彼らを心配しない日はありません。私たちがキーウにいるときは観客に芸術の力で少しでも喜びを与えたいと努めています。新たな演目も加わり、寺田さん、振付師の方々のおかげでより良い成長に繋がっていると信じています」
ソリストのカテリーナ・ミクルーハは、2021年にキーウ国立バレエ学校を卒業後、ウクライナ国立バレエ団に入団。その後、避難先として選んだオランダ・バレエ団で研鑽を積んだ18歳の新星。『ジゼル』『ドン・キホーテ』で日本初主演を果たす。
「朝起きるとまずすることは、ウクライナ国外にいる両親に電話し、自分の無事を伝えることです。踊っている時は気が晴れて、まわりのことを考えずにバレエに集中でき、それが私の支えになっています。
ウクライナは私の居場所と思い、ウクライナ・バレエ団に戻ってきました。それは、レパートリーが非常に好きで、このバレエ団の指導者のもとでより成長したいと思ったからです。冬の公演では主役を演じますが責任感に負けないように十分楽しみたい。日本の方々はとっても温かく観てくださるのでその気持ちに応えたいです」
そして寺田も日本公演は「団員の希望」と語る。
「われわれが戦う場所は舞台の上です。ウクライナに一日でも早く平和が訪れることを祈りながら毎日踊っています。
侵攻後、最初の海外公演はちょうど一年前の日本でした。そして昨冬、戦争のなか180名が来日し、奇跡的な公演を行いました。日本の多くのバレエファンの力、義援金の力で制作された新作、そして1月には『ジゼル』の初演。みなさんの力でいまのウクライナのバレエがあると言っても過言ではありません。
団員一同、日本公演は一番大事なツアーだと考えています。日本の皆さんに感謝の気持ちをこめて、そしてウクライナの芸術をいままで以上に知っていただきたいという想いで踊ります」
困難な状況のなかでも芸術を守り、進化を続けるウクライナ国立バレエ。彼らの想いを伝える来日公演、劇場で見届けたい。
●ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)
『雪の女王』『ジゼル』『ドン・キホーテ』
2023.12/23(土)〜2024.1/14(日)
東京、埼玉、群馬、静岡、大阪、京都、和歌山、岡山ほか全国9都市17公演
●ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
クリスマス・スペシャル・クラシックス
2023.12/23(土)東京国際フォーラム ホールA
「第九」「運命」
12/28(木)横浜みなとみらいホール
12/29(金)、12/30(土) 東京オペラシティ コンサートホール
問:光藍社チケットセンター050-3776-6184
https://www.koransha.com
*公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。