高関&東京シティ・フィルによる豪華絢爛なアメリカン・プログラム

自筆原稿まで遡り、作品の魅力を再発見!

高関健(指揮)東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

 20世紀のアメリカ音楽を代表する巨人、ジョージ・ガーシュウィン(1898-1937)とレナード・バーンスタイン(1918-1990)。心打つメロディーと弾けるようなリズムにあふれた2人の代表作で構成されたこのコンサートは最高のエンタテインメント。真夏の暑さに負けない元気とエネルギーをもらえそうだ。

 演奏は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、指揮は常任指揮者の高関健。高関とアメリカ音楽は意外な組み合わせに見えるが、9年前に東京交響楽団を指揮して、今回冒頭を飾るガーシュウィン「パリのアメリカ人」などアメリカ音楽を録音、CDとして発売された。これが素晴らしくシンフォニックで、スケールが大きく、美しい響きに満ちている。

 タクシー・ホーン(警笛)がユーモラスな「パリのアメリカ人」だが、ガーシュウィンはパリの街を散策するアメリカ人の郷愁を表している。トランペットのソロに始まるブルースはノスタルジックでお洒落。ミュージカルファンなら映画「巴里のアメリカ人」でジーン・ケリーとレスリー・キャロンが踊る幻想的なシーンを思い出すだろう。

 高関は、慣習や伝聞に陥ることなく、スコアに従って作曲家の意図に基づく表現を目指す指揮者。今回もガーシュウィンの自筆原稿にまでさかのぼり、出版に際して削除された後半約110小節を復活演奏すべく検討しているという。プレトークがあるので、楽譜についても詳しく話すのではないだろうか。

 日本を代表するピアニストの一人、横山幸雄によるガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」にも注目したい。横山はジャズ・ピアニストの山下洋輔と2台ピアノでこの曲を演奏している。その際は主にオーケストラパートを受け持ったが、山下と交代でソロも弾き、丁々発止の演奏を交わした。

横山幸雄(c)ZIGEN

 「ラプソディ・イン・ブルー」はジャズ・バンドのリーダー、ポール・ホワイトマンがガーシュウィンに依頼したが、ガーシュウィンは「ホワイトマン、ガーシュウィンに新曲依頼」の新聞記事で依頼を知り、3週間ほどで急いで作曲することになった。オーケストレーションに不慣れなガーシュウィンに代わり、管弦楽用編曲はグローフェが担当した。シンフォニック・ジャズを代表する曲で演奏機会も多いが、作品の隅々まで手の内に入っている横山と、協奏曲の伴奏に定評のある高関の組み合わせは理想的、緻密かつダイナミックな演奏になるだろう。名手横山の新鮮な解釈にも期待したい。

 『ウエスト・サイド物語』はバーンスタインの代表作にしてミュージカルの最高傑作。1957年にブロードウェイで初演され大ヒット。1961年には映画となり、2021年にも再映画化された。バーンスタインは1960年、『ウエスト・サイド物語』の編曲を担当したシド・ラミンとアーウィン・コスタルの協力を得て、9つの楽章からなる演奏会用組曲「シンフォニック・ダンス」をつくった。オーケストラ全員のフィンガー・スナップに始まる「プロローグ」、感動的な「フィナーレ」以外は、ミュージカルとは曲順が異なる。希望に満ちた美しい「サムウェア」、楽員全員がシャウトする「マンボ」、ジャズの雰囲気が漂う「クール」、激しい「決闘」など聴きどころが満載。
 舞曲的な音楽も得意とする高関は京都市交響楽団でも指揮しているが、信頼篤い東京シティ・フィルとキレのいい演奏を展開することだろう。

高関健(c)K.Miura

 コンサートの最後は、バーンスタイン「ディヴェルティメント」。1980年にボストン交響楽団(BSO)創立100周年の委嘱作として作曲され、同年9月25日、小澤征爾指揮BSOによって初演された。ボストン近郊で育ち、ハーバード大学で学んだバーンスタインとBSOの関係は深い。音楽監督セルゲイ・クーセヴィツキーに指揮を学び、1940年のタングルウッド音楽祭で指揮の初舞台を踏んだ。BSOには生涯愛着を持ち続け、133回も指揮したという。1990年8月、最後に指揮したのもBSOだった。

 「ディヴェルティメント」は、100周年(Centennial)の頭文字C(ド)と、ボストン(Boston) の B(シ) を循環主題として使っている。第2曲「ワルツ」はクーセヴィツキーが好きだったチャイコフスキー「悲愴」の第2楽章をイメージしたと言われる。第3曲「マズルカ」の最後にはベートーヴェン「運命」第1楽章のオーボエのカデンツァが引用される。第4曲「サンバ」は、カラフルな打楽器セクションがラテン風味を醸し出す。第7曲「ブルース」はミュートを付けたトロンボーンやドラムスが登場してジャズのよう。第8曲「思い出に」~行進曲「ボストン響よ、永遠なれ」は、3本のフルートのカノンにより、亡くなったBSOの指揮者や楽員へのオマージュが奏でられ、次いで行進曲となる。シュトラウスⅠ世「ラデツキー行進曲」やベルリオーズ「ラコッツィ行進曲」が引用され、ピッコロの起立演奏や金管の立奏など、視覚的にも華やかな構成になっている。

 2015年、高関がシティ・フィルの常任指揮者に就任して以来、お互いの信頼は年々深まり、最近の演奏は驚異的なレベルに達している。熱気と集中力は東京シティ・フィルの持ち味。会場全体がうねるような、ノリのいいコンサートになることは間違いない。
文:長谷川京介

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2023
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
サマーミューザ × ピアノ Vol.2
新時代の先駆者たち~アメリカン・オールスターズ~

2023.7/26(水)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
(14:20~14:40プレトーク)


出演
指揮:高関健(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 常任指揮者)
ピアノ:横山幸雄

プログラム
ガーシュウィン:パリのアメリカ人
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
バーンスタイン:『ウエスト・サイド物語』から「シンフォニック・ダンス」
バーンスタイン:ディヴェルティメント

問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/calendar/detail.php?id=3384