原田慶太楼発案のプロジェクトから羽ばたく若き作曲家の未来

子どもたちと音楽家を結ぶ「新曲チャレンジ・プロジェクト」

左より:上田素生、原田慶太楼、小田実結子


 東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」では、20周年を迎えた2021年から、子どもたちの書いた短いメロディーを使ったオーケストラ作品を若手作曲家(30歳以下)から募集する「新曲チャレンジ・プロジェクト」が実施されている。「踊り」がテーマの21年は小田実結子の「La danse des enfants 子供たちの踊り」が、「冬」がテーマの22年は上田素生の「雪だ!」が選ばれた。

 2023年度もすでに、「乗り物」をテーマに子どもたちからメロディーの募集が行われ、3つのメロディー(小学1年生の池村佳奈さん、小学4年生の井石柊さん、中学2年生の加藤ひのさんによる)が選ばれた。そして、現在、そのうちの2つを使ったオーケストラ作品(5分以内)の募集が行われている(応募期間: 6/30(金)23:59まで)。採用された新作は、今年12月10日の「こども定期演奏会 第88回」で東京交響楽団正指揮者の原田慶太楼と東響によって世界初演される。

 このたび、「新作チャレンジ・プロジェクト」の発案者である原田のポッドキャスト、Bravo Web Station「原田慶太楼が語るこども定期演奏会『新曲チャレンジ・プロジェクト』」に小田実結子と上田素生が招かれ、3人がこのプロジェクトについて語り合った。

 まずは、2人の応募のきっかけから。

※原田慶太楼、小田実結子、上田素生が語る「新曲チャレンジ・プロジェクト」のポッドキャストはこちら↓より

 
小田「このプロジェクトは、知人から教えていただきました。なかなか取り掛かれなかったのですが、新聞の夕刊にそのプロジェクトに関する原田さんのインタビューが載っていて、それを読んで、やるしかないでしょ、と思いました」

上田「僕には童心への憧れがあって、子どものメロディーを使ってオーケストラ曲を書き上げるというのは、僕がやるための募集だと思いました(笑)。そして通るまで出し続けようと思い、第1回に応募しました。子どもたちのメロディーには僕の憧れるものがあり、自分の創ったものには相当の自信がありましたが、小田さんの作品の初演の動画を見て打ちひしがれました(笑)。こんなにメロディーたちの美しいところを引き立てる書き方ができるんだなと。第2回は、メロディーが発表されるとすぐに書き取って、2ヵ月構想を練って、2ヵ月かけて曲を書き、1ヵ月見直しました。採用されてすごくうれしかったです」


 小田は、選ばれた子どもたちの6つのメロディー全部を使って曲を創り、3つのメロディーを同時に重ねてフィナーレを書き上げた。一昨年12月の初演の感想を「リハーサルではずっと楽譜を見ながら、問題点などを書き込んだりしていましたが、本番では客席から東響のみなさんの演奏をうれしい気持ちで聴いていました。それから、メロディーを作った子どもたちがすごく喜んでくれたのもうれしかったですね」と語る。


 このプロジェクトでの採用者には、こども定期演奏会での新作の初演やその動画配信だけでなく、様々なキャリア・サポートが用意されている。たとえば、翌年度のこども定期演奏会のテーマ曲(子どもたちから応募された曲による)の編曲が任される。

「こども定期演奏会第80回」より小田実結子(左)、原田慶太楼(中央)
写真提供:サントリーホール
曲が選ばれた子どもたちと 写真提供:サントリーホール

 そのほか小田は、原田が指揮する東響と山形交響楽団の定期演奏会のために、それぞれの楽団から新作の委嘱を受け、昨年10月に「生まれかわりの旅 〜出羽の山々に想いを馳せて〜」(山形交響楽団創立50周年記念委嘱作品)を、今年2月に「Kaleidoscope of Tokyo」(東京交響楽団委嘱作品)を発表。また、原田の盟友ともいえる、指揮者の山田和樹がこの3月に小田の新作「Olive Crown」を横浜シンフォニエッタとともに世界初演した。

 東響の2月の定期演奏会で初演された「Kaleidoscope of Tokyo」は、東京(Tokyo)のいろいろな風景が描かれるだけでなく、東響(Tokyo)の楽団員たちを思い浮かべて作曲された。小田は「みんなに楽しんで演奏していただけるように、感謝と親しみをこめて作曲しました」という。

 一方、上田は今後、原田指揮で3つの世界初演を予定している。まず5月に播磨国吹奏楽団の演奏会での「あまやどり―Listen to the rain-」。そして、8月の山響委嘱新作と愛知室内オーケストラの「空想追体験」の創作に取り組んでいる。

「こども定期演奏会第84回」より上田素生 写真提供:サントリーホール

 上田は「新曲チャレンジ・プロジェクト」について、「子どもたちのメロディーをオーケストラ曲にして、演奏していただけるのもうれしいですが、原田さんがフレンドリーにいろいろな活動で面倒をみてくださるのも魅力」と語る。

 若い作曲家へのアフター・ケアとして、原田は、いろいろなオーケストラで彼らの新作の発表の機会を作るだけでなく、楽譜の出版などもサポートしている。

 原田の目標が、日本の若い作曲家を世に紹介するだけでなく、育てることにあるからこそ、1回の初演だけではなく、それに続く彼らの作曲活動のサポートも、このプロジェクトの大切な要素の一つとなっている。それは、原田自身の日本人作曲家のレパートリーを増やすことにもつながる。

 小田実結子、上田素生に続いて、2023年はどのような若手作曲家が選ばれるのか、興味が尽きない。
文:山田治生

Information

〜こどもと若手作曲家による〜
新曲チャレンジ・プロジェクト♪ 2023

●募集作品について
楽器編成:弦楽オーケストラ以上 3333 4331 Tim+3 Hp 弦5部まで
2023年テーマ:「乗り物」 *作品名は作曲家がつけてください。
演奏時間:5分以内
※「こども定期演奏会」から提供された子どもによる3つのメロディーのうち2つを使って、オーケストラ作品を作曲。
※2023年12月10日(日)「こども定期演奏会第88回」サントリーホールにて、原田慶太楼指揮 東京交響楽団によって世界初演。

●作曲家の募集
応募期間:2023.3/20(月)0:00 〜 6/30(金)23:59
応募資格:30歳以下。国籍は問わない。


※応募詳細などは下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.codomoteiki.net/challenge2023/