牛田智大(ピアノ)

挑戦を続ける若き才能が新たなレパートリーに挑む

(c)Ariga Terasawa

 12歳でのデビュー以降、常に世界的な演奏活動を展開し続けるピアニストの牛田智大。着実にキャリアを積み重ねながら、謙虚に学ぶ姿勢を忘れない音楽へのひたむきさ、奏でられる音色の品格と美しさは多くの人々の心を掴み続けている。ここ数年はショパンに集中的に取り組んできた牛田だが、新しい年を迎えてのリサイタルではシューベルトにシューマン、ブラームスの3人の独墺作曲家によるソナタを集めたプログラムを演奏する。

 「2021年まではショパンが晩年に書いた、生と死の境を行き来するような作品を中心に弾いていました。そこで今回は明るさ、若さに満ちたエネルギーを感じる曲を並べようと思ったのです。また、これまでドイツ語圏の作品を公開の場で演奏する機会があまりなかったので、これを機に弾きたいなと」

 シューベルトの第13番、シューマンの第1番にブラームスの第3番はいずれも作曲家たちが20代前半の時の作品。現在の牛田の年齢と非常に近い。今だからこそ見える景色というものもあるだろう。彼はこれらの作曲家にはかねてからシンパシーを感じていたという。

 「10代半ばの頃から、特にシューマンについてはプログラムのメインに据えて演奏をしていきたいと思っていましたが、まだ演奏するには早いと思いあえて弾くのを避けてきました。しかし、ショパンを集中的に弾き、様々な技術を学んだ今ならば、この3人の作品を魅力的に演奏することができるようになったのではないかと思ったのです」

 今回選ばれた作品は、これまで弾いてきたショパンとはかなり違う世界が広がる。演奏スタイルや音づくりなど、アプローチは変わってくるのだろうか。

 「もちろんショパンの作品で使う音色とは違うものになると思いますが、書かれたすべての音が等しく重要という点は同じですし、向き合い方は変わりません。むしろロシアものやフランスものを弾くときの方が音の優先順位を考えるなど、違うアプローチになります。自分の中で、ショパンから今回の3人の作曲家への移行はとても自然でしたし、これまで律していた部分を開放できるところもあり、非常にやりやすかったです」

 2023年は、シューマンの協奏曲を初めて披露するという。さらに記念年を迎えたラフマニノフの協奏曲も決定している。今後は室内楽にも挑戦していきたいと語っており、牛田の新たな一面にたくさん出会える年となりそうだ。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2023年2月号より)

牛田智大 ピアノ・リサイタル
2023.3/16(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp