ぶらあぼONLINE内で好評配信中の「Bravo Web Station」は、アーティスト自身の声での語りや、会話を聞ける新しいコンテンツ。その中から、チェリストの笹沼樹さんによるコーナー、「Artist Tree」をご紹介します。カルテット・アマービレのメンバーとして活躍するだけでなく、オーケストラ、デュオ、ソロとジャンルを問わずアクティブに活動する笹沼さんが、ゲストをお招きして対話をしていきます。初回のゲストは、笹沼さんの先生、堤剛さんです。笹沼さん自身「長年、お世話になっていて初めて伺ったお話です!」という言葉も飛び出すほど盛り上がった時間でした。誌面では限りがありますが、一部分をご紹介します。全編はぜひ、Bravo Web Stationでお楽しみください!
笹沼樹のArtist Tree Vol.2 堤剛を迎えて
《ルーティーンについて》
笹沼 舞台に臨む際の先生のルーティーンみたいなものがあったら、ぜひ知りたいなと思いまして。
堤 やはりこれから演奏する曲をどういう風に弾こうかなとか考えますね。静かにね、自分の楽屋で。ちょっと手慣らししたりとか、ここはこうやってみようとか集中するわけです。
ところが、ずいぶん前になりますけど、スペインでの風習なのか、カザルス先生が始めたらしいんだけど、いわゆるギャラをコンサートの直前に持ってくるという習慣だったらしいんですね。しかも、当時はフランコという人が政権を握ってたんですけれども、非常にインフレーションを警戒していて、高額紙幣というのを作らなかった。だから、日本円でいうと、10円札とか50円札とか100円札というような感覚だったんですね。
そういう時にある街でのリサイタルの前に楽屋でどういう風にやろうかななんて考えたら、開演5分前くらいに主催者が入ってきて、「はい、これが今日のギャラなので、プリーズカウント」って言うんです。
笹沼 本番前に!?
堤 しかも小額紙幣ですから、厚い束で。数えろって言われたって5分間じゃ数えられないし、本当はもう音楽に集中したいのにどうしようと。「じゃカウントはいいから」っていうことになって。由緒あるホールで音響も素晴らしいんだけど、建物はちょっと古めかしくて楽屋の鍵もかからなかったんです。どうしようかなと思ってももう4分しかないし。
笹沼 (笑)
堤 もうしょうがない。腹をくくって、チェロのケースの中に入れて、誰か取っていかないことを願って(ステージに)出て行っていったんですけど、幸いにしてちゃんとありました。
ところがその数ヵ月後、ヨーヨー・マさんに会って、どうやら同じところへ行って、同じことになったようで。でもやっぱりこんな環境じゃどうなるかわかんないということで、燕尾服の内ポケットに札束を入れてステージに出ていって深くお辞儀したそうなんです。するとバラバラバラーっと中身が出てしまって! そしたらお客さんがみんな拾っていっちゃったという(笑)。
笹沼 (笑) これなんの話でしたっけ? ルーティーンの話!
堤 だからルーティーンにもいろいろあってうまくいかないよっていう話(笑)。
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