俊才が音楽で伝える“緊迫の今”へのメッセージ
11月の弓新(ヴァイオリン)& 小林海都(ピアノ)は、ランチタイムとしては画期的な内容が光る「浜離宮ランチタイムコンサート」ならではの刮目すべき公演だ。弓新(弓は祖父の出身地・佐賀に多い姓との由)は、2011年ヴィエニャフスキ、18年ロン=ティボー入賞など数々の国際コンクールで受賞歴を誇る実力派。国内外の著名楽団やアルゲリッチらと共演を重ね、20年からは北西ドイツ・フィルの第2コンサートマスターも務めている。小林海都は、21年リーズ国際ピアノコンクールの第2位受賞が話題となった上昇株。彼もまたN響など内外の楽団やデュメイ等と共演を続けている。共に高いレベルで安定したテクニックを誇り、豊潤かつ引き締まった音楽を聴かせるだけに、ハイクオリティの演奏を堪能できるのはまず間違いない。
そこで注目すべきはプログラムだ。旧ソ連の体制下で批判や死と表裏一体の人生を送ったショスタコーヴィチとシュニトケ、そしてウクライナの現役作曲家シルヴェストロフの作品が並ぶ、“今”でこその内容。しかも、悲劇性と緊迫感が支配した凝縮度の高いショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタ、アヴァンギャルドで激烈なシュニトケのヴァイオリン・ソナタ第2番「ソナタ風」、逆に透明感と抒情性が横溢したシルヴェストロフの「ポスト・スクリプトゥム」と、様々な喜怒哀楽を感じることができる示唆に富んだ3曲である。この選曲は、研ぎ澄まされた緊張感の表出に優れた弓新、さらにはピュアな感性と自在の表現を併せ持つ2人の特質が結実した、感銘深いコンサートとなる予感に満ちている。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年11月号より)
2022.11/24(木)11:30 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/