日本を代表する作編曲家が弦の名手たちとともに願う平和
クラシック音楽ファンでも一度は耳にしたことがあるはずのポップスの名曲——たとえば福山雅治の作品や、レコード大賞編曲賞を受賞した寺尾聰「ルビーの指環」——のアレンジャーとして、そして自分自身のルーツを意識しつつ、時代の先を行く数々の個性的なオリジナル・アルバムを作り出す作曲家として活躍する井上鑑が、この秋、3つのコンサート「TOKYO INSTALLATION 2022」を開催する。そのうち10月18日にヤマハホールで行われる「Birds of Tokyo 『願いを乗せて飛び立つうた』」には、バロック・チェロの名手・鈴木秀美と、東京都交響楽団首席チェロ奏者の古川展生、ヴァイオリンのマレー飛鳥が参加して、井上作品に加えてブルッフ「コル・ニドライ」、そしてカザルスの演奏で有名となったカタルーニャ民謡「鳥の歌」をそれぞれテーマにした変奏曲を演奏する。
「編曲家という役割は、喩えてみれば映画監督のようなもので、異質な個性を集めて新しい次元の作品を作るという側面があります。今回も、同じチェリストでも個性の違う秀美さんと古川さんに参加していただき、そこに僕やヴァイオリン、ヴォーカルのマレー飛鳥さんが加わることで、これまでにはないチェロの世界を展開してみたいと思っています」
と井上は語る。ご存知の方も多いかもしれないが、井上の父は日本を代表するチェロ奏者・井上頼豊で、鈴木秀美、古川展生もその教え子である。
「鑑さんは作曲で音楽大学に進まれて、三善晃先生に師事されたということは伺っていました。旧知の仲ではありますが、一緒にコンサートをするようになったのは、僕が日本に帰ってきた2000年代に入ってからです」
と鈴木。ふたりはチェロという楽器を通して、実は様々な形のコラボレーション経験がある。
「僕自身はチェロに触ったこともないのですが、個性の違うチェリストの演奏を子どもの頃からたくさん聴いてきましたので、チェロという楽器の可能性については常に意識してきました。今回は、父から手渡された『鳥の歌』という作品への想いをキーにして、このような時代に何か発信したい、というテーマも持ったコンサートとなります」(井上)
「最近の若い学生はカザルスが国連でスピーチして、この『鳥の歌』を弾いたという歴史的な出来事も知らない子たちが多いはず。だからこそ今、この作品を演奏する意味がある。古川君などとの共演のなかで、その意味を発信できれば嬉しいですね」(鈴木)
この秋、もっとも“気になる”コンサートにぜひ足を運んでいただきたい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2022年10月号より)
―井上鑑 TOKYO INSTALLATION 2022―
Birds of Tokyo 「願いを乗せて飛び立つうた」
2022.10/18(火)19:00 ヤマハホール
問:ヤマハ銀座店インフォメーション03-3572-3171
https://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/hall/