スター奏者の“吹き振り”は聴きどころ満載
世界屈指のスター・クラリネット奏者、アンドレアス・オッテンザマーが、東京交響楽団の公演で、“吹き振り”を披露する。1989年オーストリア生まれで、父と兄が共にウィーン・フィルの首席奏者という驚異的なクラリネット一家の一員たる彼は、僅か21歳でベルリン・フィルの首席奏者に就任した稀代の名手。ソリストとしても第一線で活躍し、アンサンブル・ウィーン゠ベルリンのメンバーも務めている。その演奏は柔らかく滑らかにしてクリア。生気と味わいが共生した表現もセンス抜群だ。
今回のプログラムには自身ゆかりの独墺ものが並ぶ。まず着目すべきは、オッテンザマーの編曲によるメンデルスゾーン「無言歌集」のクラリネット&弦楽オーケストラ版(有名な「春の歌」など8曲)。彼は同曲集の編曲版を数多く録音し、清新かつ歌心に溢れた好演を聴かせているので、ライブでの感触が楽しみだ。もう1つの聴きものは、前衛作曲家ベリオが編曲したブラームスのクラリネット・ソナタ第1番。曲の基本構成はそのままに新鮮なオーケストレーションが施された本作には、同楽器の代表作におけるオッテンザマーの妙技、吹き振りによる彼の解釈、生で耳にする機会の稀な響きなど、チャーム・ポイントが目白押しだ。またモーツァルトの「ハフナー」交響曲、ウェーバーの《オベロン》序曲(共にクラリネットを重用した作曲家でもある)は、指揮者としても活動の場を広げる彼の表現が興味津々。もちろん全体を通して、精緻で柔軟な東響との音楽作りに耳目が集まる。
新味に溢れた本公演は、管楽器ファンのみならず要注目だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年6月号より)
東京オペラシティシリーズ 第128回
2022.7/2(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
名曲全集 第178回〈前期〉
7/3(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
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