迫昭嘉の第九 vol.6

ベートーヴェン後期の入り口チェロ・ソナタ第5番と併せて

(c)武藤章

 多くの人が、年末になるとベートーヴェンの音楽を聴きたいと願うのではないだろうか。昨年の生誕250年のメモリアルイヤーに行われる予定だった「迫昭嘉の第九」はコロナ禍で延期となったが、それがいよいよ実現されることになった。

 今回は、前半にベートーヴェンの最後のチェロ・ソナタ第5番が、後半に最後の交響曲第9番(リストによる2台ピアノ版)が演奏される。チェロ・ソナタ第5番はロマン派音楽につながる作品として自由な創意工夫が見られ、第1楽章はチェロの華やかさ、ピアノのトレモロが特徴。第2楽章アダージョは抒情的な緩徐楽章で、低音の主題が美しい。第3楽章はバッハのフーガ技法が取り入れられ、巧みな4声のフーガを構成している。チェロは迫が30年共演を続け、お互いの呼吸を飲み込んでいる向山佳絵子。この作品での共演は初めてゆえ新鮮なデュオが生まれるに違いない。

 「第九」では一昨年の共演で大きな喝采を浴びた江口玲が登場。「第九」リスト編は、あたかもオーケストラのように多種多様な響きが2台のピアノから紡ぎ出される。Hakuju Hallの親密で高音質なホールでは各音がクリアに聴こえ、ベートーヴェンが「第九」に託した深遠で壮大な音楽が聴き手の全身を包み込むように伝わってくる。迫の音はリリカルで透明感にあふれ、歌を奏でるよう。江口は凛とした響きと構成力が特徴。それが和し、聴き手を至高の世界へと導いていく。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2021年12月号より)

2021.12/18(土)15:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://www.hakujuhall.jp