横浜みなとみらいホールが、新企画「プロデューサー in レジデンス」初代プロデューサーと、次期ホールオルガニストを発表した。同ホールは現在、大規模改修工事のために休館中で、2022年11月にリニューアルオープンを予定。休館中も動画配信や横浜市内各区でのコンサートなど、様々な企画の発信を続けている。
「プロデューサー in レジデンス」初代プロデューサーに
藤木大地(カウンターテナー)が就任
今年度よりスタートする新企画は、国内外で活躍する音楽家をプロデューサーとして迎え、ホールと連携して「音楽ファンの心に残る企画性の高い演奏会の実現」「演奏家自身のプロデュース力の向上」を目指す意欲的な取り組み。初代プロデューサーには、カウンターテナーの藤木大地が就任する。
藤木は2017年、東洋人のカウンターテナーとして初めてウィーン国立歌劇場にデビュー。バロックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーを持ち、20年にはヘンデルのオペラ《リナルド》、21年には新国立劇場で世界初演されたオペラ《スーパーエンジェル》に主演するなど、国内外で活躍を続けている。ホールとアーティストが連携して企画にあたることで、どのような事業を展開していくのか注目される。
■初代プロデューサー就任によせて(藤木大地)
僕が声楽の勉強のために上京した年にオープンした横浜みなとみらいホールと、こんなに素敵なご縁で結ばれることとなり、本当に光栄です。
歌手としての国際的な経験、そして歌を諦めようとしていた頃には音楽祭の制作スタッフとしても働き、実際それを生業にしようとウィーンの大学院で経営学を修めた20代後半から30代半ばの頃の経験、40歳を過ぎて、それらの点がだんだん線につながってきたなと感じていた時期にいただいた大役を、新時代を迎えたばかりの横浜市から、全国の皆さんに音楽を楽しんでいただくことで果たしたいと思っています。
プロデューサーとは、オーディエンスのための企画を作る人のことだと思っていました。もちろんそれは正しいのですが、舞台芸術を職業とし生活する音楽家、スタッフ、そして家計を同じくするその家族の、音楽や芸術を愛し全うしてきた人生をこれからもあたたかく維持するために、人と人とをつなぎ、そういった人たちの仕事、雇用を新たに、そして継続的に生み出すこともまた、プロデューサーのつとめであると考え始めています。
そのようなコンセプトから、僕の任期中には、全国各地の劇場やご主催者との共同(協働)制作、また教育機関との強いタイアップによる職業人の育成を二本柱として、横浜にも、ご一緒いただく各地の皆さんにも、将来へのよいブランディングの機会となるような、最高品質の事業ラインアップを構想しています。本物に触れてこそ、未来の聴衆も育つと信じているからです。
すでにプロジェクトは動き始めていますが、一緒に船に乗ってもいいよ、と申し出てくださる皆さんがいらっしゃいましたら、大歓迎です。ホールまでお問い合わせいただけたら嬉しいです。
こんにち、これまでライバルだと位置付けられていた人たちも、目先の利益にとらわれず、みんなで手を取り合って文化芸術の維持、発展に協力し、すなわち社会に寄与する時代だと思います。
文化が人の心を豊かにするという有名な言葉が本当だったことを、そして確かに優しい世の中を作ることを、この仕事に没頭することで実感するのだろうし、その実感をかたちにしてお伝えしていくつもりです。
それでは、劇場でお会いしましょう!
横浜みなとみらいホール 次期ホールオルガニスト決定
2022年4月からの次期ホールオルガニストに、近藤岳(こんどうたけし)が就任することが決定した。近藤は東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。同大学別科オルガン科、同大学院修士課程修了。2004年〜18年まではミューザ川崎シンフォニーホールのホールオルガニストを務めた。現在はリサイタルへの出演、自作自演、委嘱作品の作曲など幅広い活動を展開している。ホールオルガニストとして、企画や出演だけでなく、後進育成、楽器のメンテナンスなど多岐にわたる活動を担うことになる。
横浜みなとみらいホールのパイプオルガンは、アメリカのC.B.フィスク社製。大ホールの舞台正面に設置されており、 光を意味する「ルーシー」の愛称で親しまれている。同ホール開館以来、三浦はつみがホールオルガニストを務めてきた。現在進行中の改修工事に伴い初のオーバーホールが予定されており、リニューアル後の音色にも注目が集まる。
■ 就任にあたって(近藤 岳)
この度、2022年にリニューアルオープンする横浜みなとみらいホールのオルガニストに就任いたします、近藤岳です。
前任の三浦はつみさんを通じて、ご自身の退任後に、次期オルガニストをぜひ務めてもらえないだろうかと、身に余るお話をいただきました。
開館当初から、常にホールのオルガン事業を素晴らしく導いてこられた三浦さんのご功績は、誰にも真似できるものではありません。オルガン‟ルーシー“と共に、いつも明るい光を指し示してくださりました。僕も様々な局面で、暖かなお心遣いやたくさんのご配慮をいただき、オルガニストとして得難い経験をこれまでに数多くさせていただきました。
お返事に際しては、ずいぶん迷いましたし、果たして本当にお役に立てるだろうか……という思いやプレッシャーが大きかったのですが、こんな光栄なお声がけを頂いたのであれば、それにお応えし、これまでの恩返しをしたい! と思い至り、正式にお話をお引き受けいたしました。
ホールのオルガニストに従事するのは、今回が初めてではありません。2004年7月から2018年3月末まで(途中留学期間がありましたが)、ミューザ川崎シンフォニーホールのオルガニストを11年ほど務めました。ミューザでは本当にたくさんの経験や学びを得て、いろいろなご縁に恵まれました。それらは僕にとってかけがえのない財産になっています。
思い返しますと、横浜みなとみらいホールのルーシーに初めて触れたのは、ミューザ時代からさらに遡り、僕がまだ大学院に在籍していた頃だったと記憶しています。おののくほどの存在感に圧倒され、自分がまだまだ未熟すぎて、正直「敵わない」と感じたのを今でも鮮明に覚えています。あれからだいぶ時間は経ちましたが、40代後半を迎えた今、やっとルーシーと真正面から向き合えるようになってきたと感じています。
来年2022年のリニューアルオープンを経て、2023年にホールは開館25周年、‟ルーシー“も25歳、そして僕は50歳となります。「人生の後半戦は、横浜で。」……きっと僕にとって最後のホールオルガニスト職になるだろう、そんな思いでおります。ですので、これまでの音楽経験を存分に活かし、三浦さんから受け継いだバトンをしっかりと手にし、「人」と「オルガン」と「音楽」をつなぐたくさんの素敵なことを、ホールから、横浜から、発信して参りたいと思います。どうぞご期待ください!
横浜みなとみらいホール
https://mmh.yafjp.org/mmh/