セバスティアン・ヴァイグレ記者会見

 読売日本交響楽団(以下、読響)は、2019年4月に第10代常任指揮者に就任するセバスティアン・ヴァイグレの記者会見を5月28日に都内で行った。ヴァイグレは来日中に盲腸が悪化して入院していたが快方に向かい退院。この日、報道陣の前に元気な姿を現した。
(2018.5/28 東京芸術劇場 Photo:I.Sugimura/Tokyo MDE)

セバスティアン・ヴァイグレ

 会見は津村浩事務局長の挨拶で開始。
「2011年に読響はシルヴァン・カンブルランを常任指揮者として招き、フランス音楽や近代音楽をレパートリーに取り入れ、《アッシジの聖フランチェスコ》も高い評価を受けるなど、オーケストラの水準をいっそう向上させた。この好調をさらに発展させ、保守本流といえるドイツのレパートリーを演奏してほしいとの願いからヴァイグレ氏に昨秋オファーした。団員からの評判も良く、読響のイメージにぴったりだった。先ほど正式に契約を交わした」と語った。
 ヴァイグレは写真の通り、TVニュースのキャスターを思わせるクリーンで知的な雰囲気の持ち主。1961年ベルリン生まれ。ハンス・アイスラー音楽大学で最初にホルンを学び、シュターツカペレ・ベルリンで首席として活躍。その後、指揮の手腕も買われ、ダニエル・バレンボイムのアシスタントを経て指揮者として本格的にデビューした。2008年からは名門フランクフルト歌劇場の音楽総監督の任にある。来日はホルン奏者時代を含めると21回に及ぶ。指揮者として読響との共演歴は16年8月の3回の公演と翌年のオペラ《ばらの騎士》(二期会公演)で、いずれも絶賛を博している。ヴァイグレの任期は19年から22年にかけての3年間。
セバスティアン・ヴァイグレ
 以下、会見でのマエストロのコメント。
「とても名誉あるポストへの就任だと受け止めている。フランクフルト歌劇場での仕事も10年になり、コンサートにも力を入れたいと感じていた矢先のオファーで大変に嬉しい。読響との演奏は仕事以上に大きな喜びと言って良い」
 読響の印象については。
「団員が100パーセントの力を発揮する。私の要望をスポンジのように吸い取ってくれる。多くのメンバーがドイツなどヨーロッパで勉強したことを持ち帰ってきていると感じている。読響はポテンシャルの高いオーケストラだと思う。私は作品に相応しい響きをこのオーケストラから引き出したいと考えている」
また「演奏者だけでなく日本人のプロ意識に感心する。会場の音響が素晴らしく、裏方のスタッフのレベルも高い」とも。
 初年度の19年、20年のプログラムについては次の通り紹介した。
「選曲のポイントとしてお客様が聴きやすい曲、そしてドイツのロマン派の作品が中心となる。選曲に関しては事務局と念入りに相談して決めた」
 19年の5月で中心となるのはブルックナーの交響曲第9番。そしてヘンツェの『7つのボレロ』。ヘンツェの曲など興味深いが、以前にも読響によって演奏されたことがあるという。そしてブラームスの『4番』とベートーヴェン『英雄』など。
「9月にはハンス・ロットの交響曲とメンデルスゾーン『イタリア』、マーラー『5番』を取り上げる。このなかでロットの作品が特徴的だと思う。今回演奏する交響曲はロットが弱冠20歳で作曲した傑作」
 ロットはヴァイグレにとって特別な存在のようで、「自分はハンス・ロットの作品を世に紹介することを使命だと感じている」という。日本では演奏される機会の少ない作品だけに興味津々だ。20年にはブラームスの1番とR.シュトラウス「英雄の生涯」ほかを。
 こうした作品以外にも当然、協奏曲が入ってくるが、ソリストについては「世界的に有名な演奏家だけでなく、将来有望な若手も迎えたい」と新人の起用を強調する。そして「今後は委嘱新作も考えている」と意欲的だ。
セバスティアン・ヴァイグレ

 さて、フランクフルト歌劇場のシェフとして活躍するヴァイグレにとって、オペラとコンサートで振る場合での相違はあるのだろうか?
「オペラとシンフォニーとでは制約上の違いはあるものの、アプローチは基本的に同じ。シンフォニーの場合でも音楽の展開を具体的に思い浮かべながら演奏している」という。さらにホルニストとして音楽家のキャリアをスタートさせたヴァイグレは「R.シュトラウスやワーグナーのオペラでホルンの重要性を感じる。管楽器を学んだことで、オーケストラを指揮する際の呼吸に生かすことができていると思う」と述べる。ちなみにホルン奏者時代は多忙を極め、オーケストラでの演奏と練習、指揮のアシスタントの練習が重なり「私生活ゼロ状態」だったと笑う。
 現在はもちろん指揮に専念しており、「モーツァルトのホルン協奏曲の吹き振りをすることもない。録音があるのでCDで聴いてほしい」とのこと。
 今後は「フランクフルト歌劇場での経験を生かして、演奏会形式でのオペラの上演や、同歌劇場から歌手を招聘することも視野に入れたい」と抱負を述べた。

読売日本交響楽団
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