デビュー20周年記念公演 森 麻季(ソプラノ)

人のこころに響く美しき歌

©Yuji Hori
©Yuji Hori
 デビュー20周年を迎えた森麻季の記念リサイタルは、日本歌曲からオペラ・アリアまで、彼女の幅広い魅力を伝える構成。ピアノの山岸茂人と、長原幸太らの弦楽五重奏が共演する。
 森のデビューは1996年10月のニュー・オペラ・プロダクション公演《電話》(メノッティ)。その翌年7月に二期会と韓国の共同制作の《リゴレット》でジルダ役に抜擢されて以来、日本を代表するプリマとして国内外で輝かしいキャリアを築いてきた。華のある美しい容姿とレッジェーロの目の覚めるようなコロラトゥーラの技術を併せ持つ人気ソプラノだが、その最大の美点は、歌に深い説得力を伴っていることだ。ある取材で彼女は、自らの大きな分岐点として2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを挙げていた。ちょうどその日ワシントンにいた彼女は、直後のコンサートで歌い、音楽が直接的に社会に貢献できる力を持っていることを実感したという。彼女の歌に何かの「思い」を感じるのも、そんな体験によるのだろう。
 正統的なクラシックのレパートリーはもちろんのこと、今度のリサイタルでも歌う、東日本大震災復興支援ソングの「花は咲く」にも同じ思いが込められていて、それが、リリコの音域でも豊かに響く類い稀な美声で、人の心に直接、濃厚に、しかしとても自然に響く。表層的なプレゼンテーションにかまけるのでははない、そんな歌の本質を見据えた姿勢は、今後キャリアを重ねて声の質が変わっていっても不変のはずだ。
文:宮本 明
(ぶらあぼ 2017年2月号から)

3/19(日)14:00 横浜みなとみらいホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp/