鶴澤 奏(ピアノ)

これからはひとりの演奏家としてピアノと向き合いたい

 今年の4月23日から6日間にわたり開催された第6回「野島稔・よこすかピアノコンクール」。全国から集結した参加者が2つの予選を経て10名にまで絞られ、リサイタル形式の本選に臨んだ中、第1位を勝ち取ったのは鶴澤奏。東京音楽大学ピアノ演奏家コースで学ぶ若きピアニストだ。美しい音色、旋律を丁寧に紡ぎ出す歌心が高く評価されての受賞となった。
「本選後の懇親会で、審査委員長の野島稔先生がお褒めの言葉として『いいところまで来ているよ』とおっしゃってくださいました。野島先生は審査の際に音質をかなり重視するということでしたので、そのような暖かいお言葉をいただくことができたのはとても嬉しかったです」
 11月23日に開催される優勝記念リサイタルでは、コンクールで高い評価を得たショパンの「幻想ポロネーズ」をはじめ、ラフマニノフやドビュッシー、モーツァルトにチャイコフキーと、多彩な作品を演奏する。
「すごく大きな音が出せるわけではないので、最近までラフマニノフの演奏を避けていました。でも学内の試験や今回のコンクールでソナタ第2番を弾いてみたところ、意外と違和感なく弾くことができ、苦手意識がなくなりました。そこで、リサイタルにもラフマニノフを入れたいなと思い、以前から大好きな『ショパンの主題による変奏曲』を中心に選曲しました」
 これまでにも多くのコンクールで入賞を重ねてきた鶴澤だが、第1位は意外にも今回が初めてだという。その後、環境や心境の変化はあったのだろうか。
「光栄な演奏の機会をいただいたことをはじめ、これからは学生ではなく、ひとりの演奏家としてピアノと向き合わなければ、と気持ちが引き締まりました。また、以前ならリサイタルのプログラムをここまでチャレンジ精神旺盛な内容にはしていなかったと思います。素敵な曲ばかりなので、ぜひリサイタルでは“いま”の私の挑戦を楽しんでいただきたいです」
 大学卒業後は「早く海外に出てもっと沢山のことを学び、個性を磨きたい」と語ってくれた鶴澤に、今後どんなピアニストになりたいかと尋ねた。
「まだ具体的なビジョンがあるわけではないですが、いつも誰かのための演奏をしたいですね。やはり“対自分”よりも、相手のために弾く方が音楽もより充実したものになります。そして音にももっとこだわっていきたいです。音楽家は奏でる音によって、現実とはかけ離れた夢のような世界に聴く人を連れていかなければならないと思っているので」
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ 2016年11月号から)

第6回 野島 稔・よこすかピアノコンクール優勝記念公演
鶴澤 奏 ピアノ・リサイタル
11/23(水・祝)14:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
http://www.yokosuka-arts.or.jp