ヤクブ・フルシャ(指揮) 東京都交響楽団

満を持してマーラーと向き合う

 台頭著しい30代指揮者の中でも、ヤクブ・フルシャは欧州で着実に地歩を固めている一人。エリシュカやビエロフラーヴェクといったチェコを代表する現役指揮者たちに学んだフルシャの“チェコ・ブランド”は筋金入りだ。この9月からはノットの後を継いでバンベルク響の首席指揮者に就任。この楽団は、プラハ在住のドイツ人が戦後ドイツに帰還して作った団体で、中欧のバランスのよいサウンドを今に伝える。相性のいい名門のシェフに収まり、さらなる展開を胸に期しているはずだ。
 首席客演指揮者を務める都響との12月定期も、強みを生かしたフルシャらしい選曲になっている。メイン曲はマーラー「巨人」。マーラーの生地はフルシャの生地ブルノとプラハの真ん中あたりに位置する。いわば同郷の作曲家なのだが、意外にもフルシャが都響でマーラーを振るのはこれが初めて。若杉、ベルティーニ、インバルらとマーラー演奏の金字塔を築いてきた都響。若きマエストロとの共演に注目が集まる。見通しのよいタクトが、巨大管弦楽をどう鳴らすか。
 前半に演奏されるのは、やはりお国の作曲家ドヴォルザークの「ヴァイオリン協奏曲」で、ソロはヨゼフ・シュパチェク。シュパチェクは2011年から15年まで、チェコ・フィル史上もっとも若いコンサートマスターとして責を担っていた。現在はソリストとして活躍の場を広げている。もちろん同フィル常任客演指揮者を務めるフルシャとは旧知の仲だろう。
 年の瀬、“「第九」レース”が始まる直前だが、チェコの哀愁、ボヘミアの深い森の空気に新世代の息吹を聴きとるのも一興だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2016年11月号から)

第820回 定期演奏会 Cシリーズ 12/13(火)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
第821回 定期演奏会 Bシリーズ 12/14(水)19:00 サントリーホール
問:都響ガイド03-3822-0727
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