“川端美学”の到達点を大胆にオペラ化した衝撃作
男の「老い」と「実存」について、文豪・川端康成が自らの美学の到達点として完成した小説『眠れる美女』。「年老いた男性が薬で眠らされた若い女性に寄り添いながら一夜を過ごす館」を舞台にしたこの奇妙な物語は、ベルギーの芸術家たちを触発し、練られた台本とスコアによってオペラ化された(演出・台本:ギー・カシアス、作曲・台本:クリス・デフォート)。
構成はユニークで、男女の声楽家と俳優が2組、ダンサー、「眠れる美女」4人を女声歌手4人がコーラスとして歌う。ベルギー王立モネ劇場での初演(2009年)以降、ベルギー国内にとどまらず欧米各都市の劇場で再演されてきたこのプロダクションが、日本ベルギー友好150周年である2016年、いよいよ日本で初演される。
老人役のバリトン、オマール・エイブライム、女役のソプラノ、カトリン・バルツに加え、注目されるのは芝居を担当する役者たちの顔ぶれ。長塚京三と原田美枝子が物語の重要な核を演じる。「眠れる美女」を象徴する踊り手は、国際派ダンサー伊藤郁女(かおり)。注目の振付家シディ・ラルビ・シェルカウイの振付で、ベルギーのプロダクションでも伊藤がこの役を踊っている。
オペラでは、物語は三夜に再構成され、一夜ごとに特徴の異なる「眠れる美女」たちが登場する。眠りの中にいるような不思議な時間の中で、男女の本質、生と死と老いの本質が浮き彫りになり、小説の対岸から川端の世界が形作られていく様子はまさにスリリング。今までにない全く新しいオペラ体験になるはずだ。
文:小田島久恵
(ぶらあぼ 2016年11月号から)
12/10(土)、12/11(日)各日15:00 東京文化会館
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
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