10周年の記念に贈る、偉人たちの宝石箱
愛すべきヴァイオリンの小品たちを、技術の確かな若い奏者による本格的なコンサートで、まとめて聴く機会は意外に多くない。松田理奈のCDデビュー10周年リサイタルは、その稀少な公演だ。彼女は、2004年日本音楽コンクールで第1位を受賞し、ドイツのニュルンベルク音楽大学と同大学院を首席で修了。06年ビクターよりデビュー・アルバムをリリース後は、リサイタルやCD録音を重ね、今秋のハンガリー国立フィルやN響、都響をはじめとする主要オーケストラとの共演も続けている。確かな技巧で楽曲の特質を衒いなく表現する、紛れもない実力派だ。13年には新日鉄住金音楽賞を受賞。イザイの無伴奏ソナタの全曲録音が高く評価され、そうした難曲もたびたび披露している。
その彼女が今回あえて行うのが、小品集による記念リサイタル(共演はピアノの江口玲)。それは「どれほどヴァイオリンを大事に想い愛して切磋琢磨し時を刻んできたのかがよくわかる、ヴァイオリニスト作曲によるヴァイオリンの名曲を沢山弾きたい」(公演チラシより)との想いに拠っている。確かにここには、ヴィターリ、パガニーニ、サラサーテ、エルガー、イザイ、ドルドラ、クライスラーという、偉大なコンポーザー=ヴァイオリニストの作品が並んでいる。メロディアスな曲も技巧的な曲もある。クライスラーの作品、特に彼のクラシカルな曲の多さも特徴的だ。
最近温かな表情や余情を加えている松田の演奏で、こうした楽曲を聴くのは、まさに幸せな時間。そのナチュラルな艶やかさに、たっぷりと浸りたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2016年11月号から)
12/10(土)14:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp